改訂新版 世界大百科事典 「ハゲワシ」の意味・わかりやすい解説
ハゲワシ (禿鷲)
vulture
タカ目タカ科のうち,ユーラシアとアフリカに産する腐肉食の大型の鳥のグループで,6属15種を含む。オオコンドル,カリフォルニアコンドルなど新世界産のコンドル類は,形態も生活様式もこの仲間に似ているが,分類学的には縁が遠く,コンドル科に分類されている。体重1.5~7kg,翼開張が1.5~2.7mもあり,くびが長い。多くの種で頭とくびの羽毛がなく,皮膚が裸出している。上昇気流を利用して長時間帆翔(はんしよう)し,大型獣の死体を見つけると地上に降りて食べる。このときの降下姿勢を見て,次々に周辺の個体も集まる。アフリカの原野では,まず大型のハゲワシが皮を食い破って肉を食べはじめると,中型の種が中から肉をとり,小型の種は食い散らかしを片づける。アフリカ産のヤシハゲワシGypohierax angolensisはアブラヤシの果皮をよく食べる。エジプトハゲワシNeophron percnopterusは,くちばしにくわえた石をぶつけてダチョウの卵を割り中身を食べることで有名。シロエリハゲワシGyps fulvusはヨーロッパ南部,アメリカ北部,ヒマラヤまでのアジアの山地に分布する。日本にはクロハゲワシAegypius monachusがまれな冬鳥,あるいは迷鳥として渡来する。
→コンドル
執筆者:竹下 信雄
象徴,民俗
ハゲワシは古代エジプト人にとって太母神,特にハトホルを象徴する聖鳥である。ギリシアやローマでは,軍神になる以前は豊饒神であったアレス(マルス)にささげられ,またゼウスの頭から飛びだしたアテナ(ミネルウァ)を示すシンボルともされた。古くからハゲワシは雌ばかりで雄がいないと信じられ,風に当たって子をはらむといわれた。この俗信は,処女性と母性の両面を併せもつ女神との結びつきに由来すると考えられる。エジプトのヒエログリフ(聖刻文字)では〈母〉を表し,子ぼんのうの例としてもよく引かれる。またハゲワシの脚はヘビやサソリの毒を探知するといわれ,粉にしてブドウ酒に混ぜ解毒薬として用いられた。ローマでは鳥占いの重要な対象で,ハゲワシは13個の卵を産むがその中の一つを他の卵と巣の掃除に使って捨ててしまうといった俗信は,卜占官たちによる習性観察から生じたものであろう。近世以降は死や邪悪さに関係づけられ,むしろ不吉な鳥のイメージが強まっている。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報