胆道出血

内科学 第10版 「胆道出血」の解説

胆道出血(肝・胆道の疾患)

定義・概念
 胆道は肝内ではGrisson鞘内を肝動脈・門脈に併走して走行する.肝外では門脈に併走し,多くの場合,肝外胆管・門脈の間を右肝動脈が貫く.これら動脈あるいは門脈が胆道内に破綻し出血をきたした状態を胆道出血とよぶ.
原因・病因
 以前は大半が外傷によるものであったが,昨今の内視鏡的・経皮的治療など低侵襲治療の合併症として医原性が増加し,全体の約2/3を占めるようになった(Greenら,2001).
1)医原性:
肝内胆管の出血では,経皮経肝胆道ドレナージ,経皮的肝生検,経皮的肝癌局所治療(エタノール注入療法やラジオ波焼灼療法)に伴う血管-胆管交通路の形成や肝動脈損傷に起因する仮性動脈瘤の胆管穿破によるものが多い.肝外胆管では胆管ステント(自己拡張型金属ステント)による右肝動脈の仮性動脈瘤の胆管穿破が多い(図9-27-1).
2)悪性腫瘍:
肝細胞癌はGrisson鞘内に進展し門脈内腫瘍栓や胆管内腫瘍栓をきたしやすく,胆道出血の原因となる.胆囊癌の肝十二指腸間膜内リンパ節転移からの胆管浸潤・出血もときにみられる.胆管癌による出血は非常に少ない.
3)その他:
仮性膵囊胞や胆石胆囊炎に伴う仮性動脈瘤,肝動静脈奇形,血管炎などがあげられるがいずれもまれである.
臨床症状
 典型例には上腹部痛,黄疸,吐下血がみられるとされるがすべてそろうのは2割程度である.出血量が少ないまたは出血速度が緩やかな場合は十二指腸に出る前に胆管内に血栓が形成され閉塞性黄疸をきたす.血栓は自然に溶解され十二指腸に出ることもあれば,閉塞が持続し胆管炎や膵炎を惹起することもある.
検査成績
 血液検査では肝胆道系酵素やビリルビンの上昇,ヘモグロビンの低下がみられる.胆管炎を合併した場合は白血球やCRP,プロカルシトニンが陽性となる.膵炎を合併するとアミラーゼリパーゼなど膵酵素の上昇を伴う.
診断
 腹部エコーでは胆囊・胆管内に高輝度のデブリエコーがみられ,非造影CTでは胆管・胆囊内の濃度上昇がみられるがどちらも画像のみでは胆泥や胆石との区別は難しい(Akahaneら,2005;Obisら,2000).しかし医原性であれば病歴や血液検査所見,過去画像などを参考にすることで,また腫瘍性であれば多くの場合造影CT(マルチスライスCT)を行うことで,診断することが可能である.内視鏡で十二指腸乳頭からの出血が確認できれば一番確実である(図9-27-2).
治療・経過・予後
 門脈出血では保存的に止血する場合が多いが,動脈出血の場合は血管内カテーテル治療(コイル塞栓術)の適応となる.塞栓術が無効な場合には開腹下に肝動脈結紮術,肝切除術などが行われる.閉塞性黄疸の遷延・胆管炎合併時には内視鏡的胆道ドレナージが行われる.手術不能の肝細胞癌や胆囊癌による出血の場合は,止血困難な場合が少なくない.[伊佐山浩通]
■文献
Akahane M, Koga H, et al: Complications of percutaneous radiofrequency ablation for hepato-cellular carcinoma: imaging spectrum and management. Radiographics, 25 (Suppl) 1: S57-68, 2005.
Green MHA, Duell RM, et al: Haemobilia. Br J Surg, 88: 773-786, 2001.
Obi S, Shiratori Y, et al: Early detection of haemobilia associated with percutaneous ethanol injection for hepatocellular carcinoma. Eur J Gastroenterol Hepatol, 12(3): 285-290, 2000.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android