家庭医学館 「胸膜の悪性腫瘍」の解説
きょうまくのあくせいしゅよう【胸膜の悪性腫瘍 Malignant Tumor of the Pleura】
胸部X線写真で、左右どちらかの胸(胸郭(きょうかく))の中に水(胸水(きょうすい))がいっぱいたまっているのが発見されることがあります。
昔は、このような写真は、結核性胸膜炎(けっかくせいきょうまくえん)の陰影であることがよくありましたが、最近は肺結核が減ったため、悪性の胸膜炎のことが多くなりました。
ふつうは、がん性胸膜炎と呼びますが、細菌によっておこった炎症ではありませんから、胸膜炎ということばを使うのは本当は正しくありません。
がん性胸膜炎の原因のほとんどは、肺がんによるものです。肺がんが肺の表面をおおう胸膜を破り、胸壁と肺の間の胸腔(きょうくう)というスペースに顔を出し、その中にがん細胞が落ち込みます。
落ち込んだがん細胞がどんどん増殖して胸膜に沿って広がり、水がたまる状態が、がん性胸膜炎です。
[症状]
がん性胸膜炎になると、水によって肺がおしつぶされ、呼吸運動がさまたげられるため、せき、血たんといった肺がんの症状のほかに、ひどく息苦しくなります。
[検査と診断]
胸部X線写真で、水がどの程度たまっているか確認することが必要です。原因となっている肺がんが、どこにあり、どんな大きさなのか、リンパ節転移(せつてんい)はどの程度なのか、遠隔転移があるのかないのかなどを調べ、胸部CTを撮影して、がんの病期を決定します。
注射器に針をつけて、皮膚から胸腔に入れ、胸水を少し抜きとります。この胸水の中に、がん細胞があるか顕微鏡で観察して、診断を確定します。
がん細胞が胸水中に確認されると、腫瘍はT4となり、病期はⅢB期かⅣ期となります(表「肺がんの病期」)。
[治療]
病期がⅢB期かⅣ期ですから、手術でがんを切除することは、患者さんに痛い思いをさせるだけで、あまり意味がありません。そのため、まず胸腔にたまった胸水を抜くために、ビニールチューブを胸の中に差し込んで、おしつぶされてしまった肺を再び膨張させます。つぎに、抗がん剤を胸腔に入れて、胸水の中に浮かんでいるがん細胞や、胸壁に根をおろしたがんを殺すようにします。
場合によっては、電磁波を使って、がんのある部分を加熱し、抗がん剤の効果を高める温熱療法も行ないます。
もちろん、転移もありうるので、全身的にも抗がん剤を使用します。