胸膜とは、肺の表面をおおう
胸膜炎の原因としては、感染症、悪性腫瘍が主なものであり、
感染症のなかでは、
最初の症状としては胸痛が多く、この胸痛は深呼吸や
胸膜炎は、医師の聴打診のみでも診断がつくことがあります。胸水のたまった部位が打診で
胸部X線検査で胸水がたまっているのが明らかにされます(図45)。胸水が少量の場合には、胸部CT検査で初めて診断がつく場合もあります。
胸膜炎の原因を調べるために、胸水検査が行われます。肋骨と肋骨の間から細い針を刺し、胸水を採取します。採取した胸水が血性であれば、結核や悪性腫瘍を疑います。
次いで胸水の比重や蛋白濃度を調べ、いずれも高値(比重1.018以上、蛋白3.0g/㎗以上)であれば
胸水中の白血球分類が行われ、好中球が増えていれば細菌感染が原因であり、リンパ球が増えていれば、結核や悪性腫瘍が原因として考えられます。
悪性腫瘍や結核の確定診断は、胸水から悪性細胞や結核菌を証明することです。また、胸水中のADA(アデノシン・デアミナーゼ)の上昇(50U以上)は、結核を診断する有力な方法です。
胸水の検査だけで診断が得られない場合には、胸腔鏡を用いて胸腔内を肉眼的に観察し、病変と思われる部位を生検して確定診断をする場合もあります。
細菌感染によるものであれば、抗菌薬の点滴が行われます。抗菌薬は、初期にはペニシリンやセフェム系の薬剤が投与される場合が多く、起炎菌がわかれば、より感受性のある薬剤が選択されます。重症例にはカルバペネムという強力な抗菌薬が投与されます。
結核が原因であれば、ストレプトマイシン、リファンピシン、イソニコチン酸ヒドラジド、エタンブトール、ピラジナマイドなどの抗結核薬で治療します。
悪性腫瘍が原因であれば、胸腔ドレナージを行います。胸腔ドレナージとは、肋骨と肋骨の間から細いチューブを胸腔内に挿入し、器械で胸水を体外に汲み出す方法です。胸水が減った時点で、アドリアマイシンなどの抗がん薬やピシバニールを注入し、胸水が再びたまるのを予防します。同時にシスプラチンなどの抗がん薬の全身投与を行います。
細菌や結核による胸膜炎の予後は一般的には良好ですが、悪性腫瘍によるものでは極めて不良です。
深呼吸や咳で増悪する胸痛を自覚すれば、胸膜炎を疑い、早めに内科を受診します。とくに喫煙者の方が前期の症状を感じれば、悪性腫瘍によるものの可能性があるので、至急に内科を受診します。
沖本 二郎
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
胸膜に起こる炎症で,肋膜炎とも呼ばれ,胸膜腔内に滲出液(胸水)が貯留する。滲出液が膿性の場合には膿胸(または化膿性胸膜炎),血性の場合には血性胸膜炎と呼ばれる。なお,外傷や大動脈瘤破裂などにより胸膜腔内に血液が貯留するものは,とくに血胸と呼ばれる。
胸膜炎の原因はいろいろあるが,最も多いのは結核性胸膜炎,癌性胸膜炎であり,近年後者が増加している。そのほか,肺炎,肺化膿症,心膜炎,肺梗塞(こうそく)や,慢性関節リウマチ,全身性紅斑性狼瘡(ろうそう),皮膚筋炎などの膠原(こうげん)病でも胸膜炎を起こすことがある。また,原因が明らかでない胸膜炎を特発性胸膜炎とよぶが,実際は結核性胸膜炎であることが多い。これに対し,明らかな肺結核病巣が胸膜に波及して生じた胸膜炎は随伴性胸膜炎と呼ぶばれる。
胸痛,発熱,呼吸困難がおもな症状である。徐々に発症することが多いが,突然発症することもある。胸痛はほとんどにみられる症状であり,深呼吸や咳,体動などによって増強する刺すような痛みを訴えるが,滲出液の貯留が進むと軽減する。結核性胸膜炎や膠原病性胸膜炎では38~39℃の発熱が2~3週間続くが,膿胸では40℃に達することもまれではない。癌性胸膜炎では胸痛や発熱を伴わないことも多いが,癌の浸潤が肋間神経に及ぶと,持続性の激しい胸痛を起こす。呼吸困難は滲出液が急激または大量に貯留する場合に強く,チアノーゼを伴うこともある。そのほか,全身倦怠感,食欲不振などをしばしば訴える。
胸膜炎では聴診上,呼吸音は減弱または消失し,打診でも濁音を呈する。赤血球沈降速度(血沈)は著明に亢進する。胸部X線写真では,滲出液が少ない場合には肋骨横隔膜角部の消失を示すのみであるが,増加に伴い,境界不鮮明な濃厚均等影を示すようになる。胸腔穿刺(せんし)は胸膜炎の原因の精査の目的で行われる。穿刺液については色調,比重などをはじめ,細菌学的検査,細胞診や生化学検査などが行われる。また最近,壁側胸膜の針生検も診断のために,しばしば行われる。
胸膜炎の予後は原疾患に左右されるが,特発性胸膜炎の予後は良好であり,数週~数ヵ月で治癒する場合が多い。治療には安静・臥床,鎮痛解熱剤の投与とともに,原疾患に対する治療を行う。滲出液が大量に貯留し,呼吸困難やチアノーゼがみられる場合や,長期間貯留する場合には,胸腔穿刺や持続ドレナージによる排液を行う。滲出液の吸収を促進し,胸膜癒着を予防するために,副腎皮質ステロイドホルモン剤を併用することもある。そのほか,膿胸では以上の内科的療法では効果がみられず,肺剝皮(はくひ)術などの外科的療法を要することもある。
執筆者:龍神 良忠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
胸膜の炎症で、かつては肋膜(ろくまく)炎とよばれていた。外傷や腫瘍(しゅよう)などによっておこるもの、周辺の組織の疾患に続発するもの、遠隔臓器の疾患によっておこるものなどがあるが、もっとも多いのは肺炎、結核、インフルエンザによるものである。炎症の結果生ずる胸水を滲出(しんしゅつ)液といい、心臓や肝臓や腎臓(じんぞう)などの疾患の結果生ずる胸水は漏出液という。胸膜炎の症状は側胸痛、とくに深吸気時の疼痛(とうつう)、軽度の呼吸困難、咳(せき)、発熱などである。胸水が急速に多量貯留する場合は著明な呼吸困難、チアノーゼ、不安感を伴う。炎症の初期または治療期に滲出液がなく、胸膜の表面に線維素性滲出物が存在する状態を乾性胸膜炎という。これは急性肺炎によるものがほとんどであり、このとき聴診すれば摩擦音が聞かれる。滲出性の胸水で膿(のう)性の場合を膿胸という。
滲出性胸膜炎では、打診上、エリス‐ダモアソーEllis-Damoiseau曲線、ガーランドGarland三角など、脊柱(せきちゅう)より外方に向かう特定部位に特有の濁音があり、聴診上は呼吸音が減弱または消失する。診断には、胸部X線写真、胸水の性状の検査、細菌学的検査、胸膜生検、胸部以外の疾患に対する検索などが必要である。治療には安静がたいせつで、安静によって軽快する場合が多い。原因療法が必要で、感染の場合は抗生物質が有効であり、心不全のときは強心剤、癌(がん)性胸膜炎では放射線、抗癌剤、免疫療法などを使用する。胸水による呼吸困難があるときは穿刺(せんし)排液する。経過は基礎疾患にもよるが、一般に1、2か月で治癒する。
[山口智道]
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出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
(2014-6-3)
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…また,卵巣繊維腫などの骨盤内腫瘍で漏出性胸水を伴うことがあり,メイグス症候群Meigs syndromeとよばれる。滲出液は種々の胸膜炎や膿胸においてみられる胸水で,その原因によって外観は黄色透明~混濁,膿性,血性などさまざまであるが,一般に比重は1.018以上,タンパク質含有量3.0g/dl以上と,漏出液に比べ,高比重,高タンパク質であり,細胞成分も多い。その他,胸水にリンパ液が混じり,脂肪分の多い特有のミルク色を呈することがあり,乳糜(にゆうび)胸水とよばれる。…
…胸膜に炎症が起こったり,心不全などの場合には,胸膜腔に大量の水がたまる(胸水)。胸膜炎のあと,2枚の胸膜が癒着したりすると,肺の伸縮運動がうまく行えなくなるため,肺活量の減少が起こる。また,なんらかの原因で肺側の胸膜が破れると,肺内の空気は胸膜腔に流れ込み,肺は縮小する(気胸)。…
※「胸膜炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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