胸膜
きょうまく
肺の表面、および胸郭壁内面を覆っている漿膜(しょうまく)で、かつては肋膜(ろくまく)ともよんだ薄い透明な膜である。片側の肺表面を覆う肺胸膜は、肺門の部分で肺に進入する気管支、肺動静脈を包みながら反転して胸郭壁内面を覆う壁側胸膜に移行する。このように、片側の肺と胸郭壁とを覆う胸膜は連続しているため、肺胸膜と壁側胸膜とは閉鎖した腔(くう)をつくることになる。この左右の腔を胸膜腔とよぶ。壁側胸膜は、心臓、気管、大血管に接する縦隔胸膜、胸壁内面の肋骨(ろっこつ)胸膜、横隔膜上面を覆う横隔胸膜に分けられる。胸膜腔は狭い間隙(かんげき)であるため、肺の呼吸運動の際には肺胸膜と壁側胸膜とは触れ合うこととなる。このため、胸膜腔には摩擦を防ぐために、少量の胸膜液(漿液)が存在している。
胸膜に炎症が生じると、胸膜腔に滲出(しんしゅつ)液、血液、膿(のう)などが出現し、貯留することがある。空気がこの腔に入ると気胸とよばれる。滲出液が体内に吸収されると肺胸膜と壁側胸膜(とくに胸壁の肋骨胸膜)とが癒着することがある。その範囲が広範に及ぶと肺の呼吸運動が制限されるため、肺活量も減少する。
[嶋井和世]
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胸膜【きょうまく】
肋膜(ろくまく)ともいう。左右それぞれ胸壁の内面をおおい(壁側胸膜),さらに肺門で折れ返って肺の外表面を包む(肺胸膜)膜で,したがって左右の胸膜の間に心臓,大血管,食道,気管などを入れる腔所(縦隔)をはさむ。壁側胸膜と肺胸膜との間は狭い胸膜腔で少量の漿(しょう)液があるが,胸膜炎や心不全などの病変が起こると多量の液がたまったり(胸水),胸膜間に癒着(ゆちゃく)が起こったりする。
→関連項目漿膜
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きょう‐まく【胸膜】
〘名〙 (borstvlies の
訳語) 肺の表面と
胸腔の
内側をおおう二重の膜。左右に一対ある。体の
部位によって、横隔胸膜、縦隔胸膜、肋骨胸膜に分けられる。人では肋膜ともいう。〔
解体新書(1774)〕
[
補注]同義の ribbevlies (ribbel =肋)が肋膜と訳され、明治初期の「医語類聚」(
一八七二)には、「胸膜」はなく、「肋膜」だけが用いられている。
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胸膜
きょうまく
pleura
以前は肋膜とも呼ばれた。肺の表面をおおう肺胸膜と,胸壁の内面をおおう壁側胸膜とがあり,ひとつづきの袋状になっている。この2つの膜の間 (胸膜腔) には少量の漿液があり,摩擦を防ぐ役割をしている。これらの膜に炎症が起ると,摩擦音を生じたり,胸膜腔に滲出液が貯留したりする。
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胸膜
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
きょうまく【胸膜 pleura】
肺の外表面と,胸壁の内面,横隔膜の上面などを覆うひとつづきの薄い膜で,かつて肋膜ともいわれた。肺を覆う胸膜と胸壁などを覆う胸膜との間は胸膜腔とよばれるが,通常はほとんどすきまなく接している。胸膜腔には透明な水(漿液)がわずかにあって,胸膜に滑らかさを与えている。呼吸に際して胸郭が大きさをかえるとき,2枚の胸膜が滑りあいながら,肺は膨らんだり縮んだりする。胸膜に炎症が起こったり,心不全などの場合には,胸膜腔に大量の水がたまる(胸水)。
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世界大百科事典内の胸膜の言及
【肺】より
…最も大きな単位は肺葉と呼ばれ,右肺は上葉,中葉,下葉の三つに,左肺は上葉,下葉の二つに分けられる。各肺葉は,肺を包み込む胸膜(肋膜)によって画されている。肺葉はさらに区域という単位に分けられ,それぞれ番号と名称がつけられている(図2)。…
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