日本大百科全書(ニッポニカ) 「能力別学習」の意味・わかりやすい解説
能力別学習
のうりょくべつがくしゅう
同じような能力をもつ児童・生徒からなる集団をいくつかつくり、集団ごとに能力に応じた内容、方法で指導する学習方式をいう。能力別の集団を編成する方法としては、学級そのものを能力別に編成する方法と、学級は普通に編成して学級内に能力別の小集団を編成するもの、あるいは特定の教科(たとえば英語と数学)のときに能力別に学級を編成し直すものなどがある。さらに、アメリカにおける無学年制学校などでは、2学年以上にわたる能力別学級編成もみられる。また、能力別学習をもっとも徹底させると、個別学習ということになる。
歴史的には、アメリカで、学校に行く児童・生徒の増加に伴って19世紀の終わりころに発生し、以後欧米に広まっていっている。日本では、能力別学習という名前ではあまり行われてはいないが、これと類似した発想にたつ習熟度別学習が1978年(昭和53)の高等学校学習指導要領総則において示され、かなり広まりつつある。また、89年(平成1)の中学校学習指導要領総則において同様のものが示され、中学校でも採用されるようになってきている。同一年齢の子供であっても、40人ぐらいが集まると能力や習熟度にかなりの違いが出てくるので、同じ内容、同じ方法の指導では上位の子供は退屈し、下位の子供はついていけなくなりやすい。この傾向は、学年が進むにつれて強くなるであろう。したがって、能力別や習熟度別学習のほうが効果があがり、子供ひとりひとりの能力が十分に育成されることが考えられる。
しかし、能力別や習熟度別学習にはいくつかの問題点が指摘されている。たとえば、能力は流動的、後天的側面が強く、むしろ学習によって開発されるべきものであり、それに「応じた」学習というのは教育の機能を狭め、差別教育につながるという指摘である。また、生徒に優越感や劣等感などを生じさせやすく、人間形成や学級づくりのうえなどからも問題があるとも指摘されている。したがって、能力別や習熟度別学習の実践に際しては、それらの長所を生かし、問題点に十分配慮したくふうが求められる。
[中原忠男]