教科(読み)きょうか

精選版 日本国語大辞典 「教科」の意味・読み・例文・類語

きょう‐か ケウクヮ【教科】

〘名〙 学校で児童、生徒が学習する知識や技術を教育的な立場から系統だてて組織した一定の分野。国語、社会、算数(数学)、理科など。学科。
東京日日新聞‐明治二一年(1888)九月一八日「教科用諸器械六千九百二十三ありて」

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デジタル大辞泉 「教科」の意味・読み・例文・類語

きょう‐か〔ケウクワ〕【教科】

学校教育で、児童・生徒が学習する知識や技術を系統立てて組織した一定の分野。国語・社会・算数・理科など。
[類語]科目学科

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「教科」の意味・わかりやすい解説

教科
きょうか

学校で児童・生徒に教授すべき教育内容のまとまり、単位をいう。英語ではsubject。現在の日本では、国語、社会、算数(数学)、理科、音楽、図画工作(美術)、家庭、体育、外国語などの「教科」がある。高等学校では、その教科をさらに細分化した単位、たとえば理科における物理、化学、生物、地学などを「科目」とよんでいる。

 教科は、科学、技術、芸術などの人類文化遺産を、教育的観点から、学年発達を考慮して、教育内容として体系的に編成したものであるという定義もされる。しかし教科の区分や編成は、それぞれの国の学校の歴史や政治的、社会的条件を反映しており、かならずしも論理的に構成されているわけではない。

[伊東亮三]

沿革

一般に、教科の起源ギリシアの自由七科(七自由科)、つまり文法、修辞学、弁証法の「三学」と、算術、音楽、幾何、天文の「四科」に求められるが、この自由七科の基礎には、読み・書き・算(スリー・アールズ3R's)があり、また体育も重要な教科と考えられた。この自由七科を基軸とする教育は、古代ローマ、中世を経て、ルネサンス期に、ギリシア語・ラテン語を基本教科とする言語・古典中心の教育に変わり、その伝統は、西欧では20世紀まで続いた。

 その後17、18世紀になり、自然科学の発達と「すべての人にすべてのことを教授する」という汎知(はんち)主義や百科全書主義の思想が現れ、自由七科、言語的教科のほかに、地理、博物、物理などが教科の列に加えられてきた。

 現代的な意味での教科は、19世紀以降の国民教育制度の発展のなかで成立する。産業革命、国民国家の成立、近代諸科学の発展に伴い、支配階層だけでなく庶民階層を含むすべての国民の子弟を対象とする学校において、国語、算術、理科、歴史が主要な教科となり、さらに公民、美術、音楽、技術なども取り入れられ、整備されてきた。

[伊東亮三]

日本

大宝律令(たいほうりつりょう)によって設立された大学、国学が、中国の六芸(りくげい)(礼、楽、射、御、書、数)を範とする教科区分を採用したといわれるが、近世に入り、儒教を中心とした漢学支配階級の主要教科であった。他方、江戸中期以降、庶民を対象とする寺子屋が繁栄し、そこでは読み・書き・そろばんが教えられた。

 明治以降の日本の近代学校制度は、近代化の進んだ欧米のそれを模範として発展した。欧米に倣った教育課程は、とくに数学、自然科学の教科において、日本の科学、技術や産業発達に貢献したが、国語、歴史など文科系教科において、修身科が中核となって国家主義的臣民教育に奉仕した。第二次世界大戦後の新教育課程においては、修身、歴史、地理、公民などを統合した社会科が中核教科となり、児童・生徒の生活経験を重視する形で、各教科の内容が構成された。

[伊東亮三]

構成

教科は、小学校では、低学年において社会科と理科が生活科に統合されているように、児童の認識が未発達なため、国語、社会、理科などが合科の形で指導される場合がある。このように、小学校の低学年では教科自体の内容が未分化であるが、高学年からさらに中学校、高等学校へと進むにしたがって教科の内容が分化・専門化していくのが一般的である。その分化した内容のまとまりを、中学校では「分野」とよび、高等学校では、前述のように「科目」という。

 また教科は、分類のうえで、他の諸教科の学習の道具となる言語や数量を扱う「用具教科」(道具教科)、内容そのものの習得を直接に目的とする社会・理科などの「内容教科」、音楽・図画工作などの「表現教科」の3グループに分けられることもある。しかし、それはかならずしも教科全体を構造的にとらえているわけでもない。国語は、言語教育文学教育の両面をもっており、用具教科にも表現教科にも入ることになる。また国語や算術・数学を用具教科とよぶことを嫌う人もいる。体育がこれらの3グループに入りきらないという不都合もある。

[伊東亮三]

『木原健太郎編著『現代教科教育学大系1 教科教育の理論』(1974・第一法規出版)』『柴田義松著『教育学大全集31 教科教育論』(1981・第一法規出版)』『生江義男ほか編『教科教育百年史』(1985・建帛社)』『信州大学教科教育研究会著『教科教育学の構想――学習指導を深めるために』上下(1986・明治図書出版)』『『現代教科教育シリーズ』全12巻(1987~89・東信堂)』『北海道教育大学教科教育学研究図書編集委員会編『教科教育学の創造――創る視点と探る視点』(1992・東京書籍)』『真野宮雄・蛯谷米司・高萩保治編『21世紀に求められる教科教育の在り方』(1995・東洋館出版社)』『日本教科教育学会編『新しい教育課程の創造――教科学習と総合的学習の構造化』(2001・教育出版)』

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改訂新版 世界大百科事典 「教科」の意味・わかりやすい解説

教科 (きょうか)

小・中・高の諸学校での授業を通して子どもが学習すべき知識や技術などを,学問や文化の体系に沿って,人類の遺産の中から必要なものを選びとり,教育的に組織したものをいい,学科とも呼ばれる。また教科の中で,さらに区分して系統立てられた領域を科目と呼ぶ。教科の起源は西洋古代以来の自由七科(リベラル・アーツ。文法・修辞学・論理学の三科と算術・音楽・幾何・天文学の四科による自由人の教養を示したもの)にあるといわれている。しかし時代とともに支配層の教養の中身も変化してきた。ギリシアの貴族は音楽と体操,中世の僧侶は神学,騎士は武芸が中心であり,ルネサンス期ではラテン語やギリシア語による古典が重視された。近代になって生まれた人間解放の思想の中で,言語や数のほかに自然や社会に関する近代科学や技術学がとり入れられ,読み書き算の基礎的教科とともに,実用的な教科も含まれるようになっていった。

 日本では,江戸中期から幕末まで並行していた武士階級の儒学,開明的な私塾での洋学,寺子屋での読み書き算という異なった教育の場での教科が,1872年(明治5)の〈学制〉による近代公教育制度の発足によって,読み書き算と近代科学を中心に一応一本化された。しかし教育勅語の発布(1890)以降,修身や国史が重視されるようになった。こうした動きに対して大正期の自由教育運動の中では,芸術や科学を重視したり教科を生活に結びつけようとする試みも行われた。だが昭和に入り戦時体制下の国民学校では,皇国民錬成の方向で教科構成が大幅に変わった。戦後はこうした反省から,一時期,新設された社会科を中核にして問題解決学習の教育も進められた。その後,基礎学力の低下問題をきっかけに系統的な教科の学習が強調されるようになり,1960年代には,最新の発達理論や学習理論にもとづき現代科学の成果をできるだけ高いレベルで教えようとする教科の〈現代化〉が進められた。

 日本の学校での現在の教科は,国語,社会(小3~中3,高校では地理歴史,公民),算数(中・高校は数学),理科,生活(小1~3),音楽,図画工作(中学校は美術,高校は芸術),家庭(中学校のみ技術・家庭),体育(中・高校は保健体育)のほか,中・高校では外国語があり,高校ではさらに,農業,工業,看護,理数などの職業専門教科がある。

 教科には現在も以下のようなさまざまな問題があり,教育改革の中心の一つとなっている。(1)教育課程は教科と教科外諸活動に大別されるが,教育活動全体の中での教科の位置や教科外との関連,さらには時間数の増減や必修教科と選択教科とのバランスなどをどう考えるか。(2)教科の内容を,科学や技術の発展とどう照応させたらよいか,また現代社会が直面している諸課題や生活との結合をどのようにはかるか。(3)高等学校で顕著な,必修科目と選択科目の内容や単位数の検討。とくに国語,社会,数学,理科の必修科目名と単位は,学習指導要領改訂のたびに変更され安定していない。(4)教科内容それ自体に指摘される問題。たとえば小学校1・2年にのみ設定されている生活科の目標と内容をどうするか,小学校3年から始まる社会科が高校では地理歴史と公民に分化される例に見られる一貫性のなさ,技術に関する教科が中学校のみにしか存在しないという不安定さ,実践的コミュニケーション能力の育成を強調しすぎている外国語(英語)教育,などがある。
教育課程 →読み書き算盤(そろばん)
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百科事典マイペディア 「教科」の意味・わかりやすい解説

教科【きょうか】

小・中・高の各学校で児童・生徒に学習させようとする文化遺産を教育目標に合わせて系統的に組織した一定の領域。もと学科とも。教科をさらに区分した領域が科目。ヨーロッパの自由七科に始まる。用具教科(国語・数学等),内容教科(理科・社会等),表現的・構成的教科(音楽・美術等)に分類。現行制度では学習指導要領によって規定される。→教科教育
→関連項目インフォーマル・エデュケーション教科書総合学習単元特別教育活動バージニア・プラン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「教科」の意味・わかりやすい解説

教科
きょうか
school subject

小,中,高の諸学校で,児童,生徒が学習すべき文化遺産としての知識,技能を,教育的観点から系統的に組織した一定の区分または領域。現在教科として,国語,社会,算数,理科,音楽,図画工作,家庭,体育などがあり,さらに教科と教科目が区別されることがある。教科の起源は,ヨーロッパのリベラル・アーツにあるとされるが,文化の発達と科学の進歩を反映して教科の質,構成は変化してきている。教科は一般に,用具教科または道具教科 (国語,算数) ,内容教科 (地理,歴史,社会,理科,家庭) ,表現教科または情操教科 (音楽,図工,文芸,ダンス) に大別される。国語,算数については,他の教科の学習を発展させる基礎となるものとして,これを基礎教科ととらえる場合もあり,またその学力はもっぱら反復訓練 (ドリル) によって形づくられるところから形式教科またはドリル教科とする場合もある。

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世界大百科事典(旧版)内の教科の言及

【教育課程】より

…主として学校教育についていわれるが,学校外の生涯学習でも,たとえば公民館の講座で主題を設定し,数回の講義・話合いなどについてたてられた計画の全体は,教育課程といえる。第2次大戦前は学科課程または教科課程といい,教科指導の計画のみを指すことが多かった。戦後数年間はアメリカの教育の影響を受け,〈カリキュラム〉の語がそのまま使用された。…

※「教科」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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