日本大百科全書(ニッポニカ) 「脂臀」の意味・わかりやすい解説
脂臀
しでん
steatopygia
内部に多量の脂肪組織が蓄積したため、後方に著しく突出した臀(しり)をいう。脂臀は、アフリカ南部のカラハリ砂漠を中心とする地方に居住するコイサン人の成人女性に顕著にみられることで有名であり、一つの人種的特徴とみなされている。アンダマン諸島に住むオンゲの女性にもみられる。脂肪組織中には繊維が発達しているので、臀全体は垂れ下がらないでいる。脂肪が発達した場合、背中に負った子を臀の上に立たすことができるという。脂肪が1か所に固まって多量貯蔵されることは、ラクダの瘤(こぶ)と同様、乾燥暑熱の荒蕪(こうぶ)地における適応形態の一つと解釈できる。なお、ユーラシア各地から出土する後期旧石器時代の女人像(ビーナスと称される)は大きな臀部をもつようかたどられているため、19世紀末に発見された当時は、脂臀をもつ人類と関連づけて考えられたが、女人像は、豊穣(ほうじょう)を願うといった願望の表現とみなされるようになり、脂臀をもつ人間がユーラシアにいたという考えは今日では否定されている。
[香原志勢]