日本大百科全書(ニッポニカ) 「脊柱変形」の意味・わかりやすい解説
脊柱変形
せきちゅうへんけい
脊柱(背骨)の彎曲(わんきょく)異常をいい、矢状面(側面)からみた変形(前彎症と後彎症)および前額面(正面)からみた変形(側彎症)が代表的で、これらに捻転(ねんてん)の加わったものもある。一般に成人の脊柱は頸(けい)部と腰部が前彎(前方に凸)し、胸部と仙部は後彎(後方に凸)しているが、これを生理的彎曲といい、脊柱変形とはその範囲や程度が異常ないし病的に増大したものである。診断は、いずれもX線像によって確定される。
[永井 隆]
脊柱前彎症
生理的前彎の範囲や程度が増大したり、胸部の生理的後彎の減少・消失、または前彎した場合にみられ、原因として姿勢の不良をはじめ、先天性脊椎(せきつい)奇形、神経筋疾患、骨系統の疾患、脊椎手術の術後変形など、後彎症や側彎症の原因に共通したものがあげられる。症状としては姿勢が悪くなるほか、脊柱運動の制限、易疲労性、局所の疼痛(とうつう)などがある。保存療法が主で、体操などの理学療法や各種体幹装具の使用によって進行の阻止を図る。
[永井 隆]
脊柱後彎症
正常限界と後彎症との定義についてはまだ定説がなく、後彎角計測法としてはコブCobb法が用いられている。なだらかな彎曲をしているものを円背(えんぱい)(全後彎、俗に猫背)といい、角状の彎曲を突背(とつはい)(角状後彎)とよんでいる。なお、胸椎後彎と腰椎前彎がともに増大したものは凹円背、ともに消失して棒状に直立したものを平背という。さらに立位では円背を呈し背臥(はいが)位では正常範囲になるものは非構築性後彎で、多くは機能性後彎ないし姿勢性後彎である。これに対し背臥位でも後彎が異常に大きい場合は構築性後彎であり、亀背(きはい)ともよばれる。姿勢性後彎がもっとも多く、脊柱後部伸筋や後部靭帯(じんたい)の弛緩(しかん)、易疲労性によるもの、習慣性のもの、心理的原因によるもの、あるいは腰椎椎間板ヘルニアによる疼痛性のものなどがあり、筋肉が未発達である学童期にはとくに円背を呈しやすいので注意する必要がある。
症状としては腰背痛をはじめ、麻痺(まひ)や内臓機能障害などがみられる。できるだけ早期に矯正しておくことが望ましい。主として装具を用いる保存的療法が行われ、若年者には匍匐(ほふく)体操や座位矯正訓練などを行う。
[永井 隆]
脊柱側彎症
脊柱の側方向への彎曲を伴う変形で、前彎症や後彎症と合併するものは前側彎症、後側彎症という。普通、構築性のものがほとんどで、その大部分は合併する疾患がまったくない特発性側彎症である。一見、健康な若い女性にみられる側彎症のほとんどがこれである。ときに背部痛や腰痛を訴えることもあるが、普通は疼痛を伴わない。二次的変形として胸廓(きょうかく)の変形をきたし、胸廓が左右不均斉となるので、整容的、美容的欠陥として治療の対象になる。運動療法、牽引(けんいん)療法が行われ、自家矯正コルセットの装用によって変形の矯正、変形増強の防止が行われる。変形の高度のものに対しては手術も行われる。特発性のもののほか、先天性のものや神経障害性のものなどがある。
[永井 隆]