腎機能検査

内科学 第10版 「腎機能検査」の解説

腎機能検査(腎・尿路系の疾患の検査法)

(2)腎機能検査
a.糸球体濾過量(GFR)
 一般には糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)をもって腎機能とすることが多い.糸球体は限外濾過により原尿を生成するが,全糸球体より生成される時間当たりの原尿の量をGFRと定義する.GFRを正確に測定するには蛋白と結合せず,糸球体でのみ濾過され,尿細管で再吸収も分泌もされない物質(X)を選んでクリアランス(CX)を求めればよい(式①).
 このような外因性物質としてイヌリンがあり,イヌリンクリアランスが,GFRを求めるためのゴールドスタンダードであるが,測定方法が煩雑であるため,クレアチニンクリアランス(Ccr;式②)で代用することが多い.
 しかし,クレアチニンは尿細管で少量分泌されるため,CcrはGFRに比べて30%程度高値を示すことを考慮しておく必要がある.
b.腎機能の指標
 ⅰ)クレアチニンとBUN 血清クレアチニン(Cr)と血液尿素窒素(blood urea nitrogen:BUN)はともに,糸球体から濾過されるため,腎機能の評価に用いられる.しかし,BUNは食事・種々の病態による変動が大きく,BUNのみで腎機能を評価すべきではない.一方,クレアチニンは筋肉で産生される小分子蛋白であり,CrはBUNに比べると変動は少なく,食事の影響も比較的少ない.BUN/Cr比>10であれば,蛋白摂取過剰,組織蛋白の異化亢進(外科手術や感染症,ステロイド投与など),消化管出血,有効循環血漿量の低下などを考慮する.しかし,CrとGFRは双曲線関係にあることから,軽度腎機能が低下している場合は,GFRの低下はほとんどCrの上昇に反映されない.したがって,Crが明らかに上昇している場合(男性で1.2 mg/dL,女性で1.0 mg/dL以上)は,すでにGFRが50 mL/分/1.73m2以下に低下していることが多い.また,Crは筋肉量に相関するため,Crの評価には体格を考慮する必要があり,筋肉量が低下した高齢者や女性などは,同じGFRでもCrは低値を示す.さらに,Crの測定法には,酵素法とJaffé法があり,Jaffé法は酵素法に比べて約0.2 mg/dL高く測定されるため,経時的な変化を見る際や,後述する推算GFRの計算の際には注意を要する.
 ⅱ)シスタチンC
 シスタチンCは非糖鎖性のポリペプチドであり,全身の有核細胞から一定の速度で分泌されるため,年齢・性別・筋肉量・運動などに影響されない.糸球体で自由に濾過され,近位尿細管で99%再吸収され分解されるため,シスタチンC値はGFRを反映する.また,シスタチンCはCrに比してGFR低下の早期から上昇するため,より早期の腎機能低下を検出できる.一方,Cr2.5 mg/dL以上になると,シスタチンCは腎機能の低下とともには上昇しなくなるので測定意義は少ない. ⅲ)推算GFR(eGFR) Cr,年齢,性別の3項目より計算されるGFR推算式が臨床上有用である(式③).eGFRによる30%正確度は74.9%と,非常によい相関を示す.しかし,あくまで式③は推算式であり,筋肉量や体表面積により,真のGFRと大きくずれることがあることに注意する.
c.腎血漿流量(RPF)
 パラアミノ馬尿酸(PAH)は体内で代謝を受けず,腎糸球体の濾過と近位尿細管からの分泌により,そのほとんどが尿中に排泄される.血漿PAH濃度が約10 mg/dL以下では,1回の腎循環でほぼ100%除去されるため,PAHクリアランスが腎血漿流量の指標となる.なお,GFR/RPFを濾過比(filtration fraction:FF)といい,0.20〜0.22が正常範囲である.急性糸球体腎炎ではFF比が低値になり,糖尿病性腎症初期や腎硬化症,間質性腎炎,うっ血性心不全などでは高値を示す.
d.近位尿細管機能検査
 水,電解質,アミノ酸グルコースなどの小分子は,糸球体から濾過されたのち,尿細管で再吸収される.近位尿細管障害の程度の指標としては,グルコース尿細管最大再吸収量や炭酸水素尿細管最大再吸収量にて定量化可能であるが,臨床的には,前述した尿細管性蛋白の増加に加えて,糖尿,汎アミノ酸尿,リン酸尿(低リン血症),重炭酸イオン喪失(代謝性アシドーシス)があれば,近位尿細管障害を疑う.
e.遠位尿細管・集合管機能検査
 水制限による血漿浸透圧上昇により,ADH分泌を介した集合管による尿濃縮力をみる検査がFishberg濃縮試験であり,前日18時から飲水制限を行い,就寝前に排尿し,翌朝6時から1時間3回の排尿を行い,1回でも尿比重1.025以上,尿浸透圧850 mOsm/kg以上あれば正常とする.ただし,脱水による循環血漿量減少に伴い,ショックを起こすことがあるので注意を要する.逆に,水負荷時にADHが抑制され,尿の希釈力をみる検査が尿希釈試験である. 遠位尿細管の尿酸性化能をみる検査に塩化アンモニウム負荷試験がある.近位尿細管性アシドーシスでは,遠位尿細管の尿酸性化能が保たれているため,塩化アンモニウム負荷後尿pHは5.5以下に低下するが,遠位尿細管性アシドーシスではpHは5.5以下にならない.[猪阪善隆]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「腎機能検査」の意味・わかりやすい解説

腎機能検査 (じんきのうけんさ)
renal function test

腎臓の機能検査法。腎臓は老廃物の排出と,体液の酸塩基平衡や浸透圧,電解質濃度などを一定の状態に保つホメオスタシスの働きを担っている。腎臓に異常が生じて,これらの機能が損なわれたとき,腎臓のどの機能がどの程度障害されているのかを知る必要がでてくる。このようなとき行われるのが腎機能検査である。具体的には,タンパク尿や頻尿など尿や排尿に異常があるとき,浮腫や高血圧など腎臓疾患によると思われる症状があるときなどに行われる。

 肝機能検査など他の臓器の機能検査と同様に数多くの検査があり,症状や主訴に応じて適宜組み合わされるが,おもなものは次のとおりである。

(1)血液生化学検査 腎臓(糸球体)での血液ろ(濾)過作用が障害されると,たとえばタンパク質のように本来排出されない物質が排出され,一方,尿素などのように排出されるべき物質がろ過されなくなる。この結果,血液中の諸成分の濃度に異常がみられるようになる。タンパク尿によってタンパク質が尿中に排出されると,低タンパク血症となり,浮腫をきたす。一方,尿素,クレアチニン,尿酸が血液中にたまると高窒素血症となる。また再吸収の低下により水分の過剰排出が起こると,ナトリウムイオンやカリウムイオンなど,各種電解質の濃度が異常に上昇する。以上から,血液中のタンパク質,尿素(血液尿素窒素blood urea nitrogen(BUNと略す)),各種電解質の濃度を検査することによって,腎臓機能の異常を知ることができる。

(2)クリアランス試験 クリアランスclearanceとは,1分間に尿中に排出される物質を供給するのに必要な血液の最小量をいう。具体的には,ある物質の尿中濃度と尿量をかけたものを,ある物質の血漿濃度で割って得られる。この場合,ある物質とは腎臓で代謝されず,また腎機能に影響を与えないものであることが必要である。また,その物質が糸球体でろ過され,尿細管から分泌も再吸収もされないものの場合はクリアランス値は糸球体ろ過値に等しく,一方,1回の腎循環でほとんど尿中に排出されるものの場合は腎血漿流量に等しくなる。前者に相当する物質にはクレアチニン,イヌリンなどが,後者に相当する物質にはパラアミノ馬尿酸(PAHと略す)がある。以上から,クレアチニンのクリアランス値から糸球体ろ過値glomerular filtration rate(GFRと略す)を求めることができ,糸球体の機能を検査することができ(これを糸球体機能検査という),PAHのクリアランス値を求めることによって腎血流量を知ることができる。

(3)近位尿細管機能検査 主として近位尿細管の再吸収機能を検査するもので,尿中β-ミオグロビン量,グルコース再吸収極量などの検査がある。

(4)尿濃縮・希釈試験 尿は糸球体でのろ過とそれに続く尿細管での再吸収によって,濃度が一定の範囲に保たれている。この調節を行っているのが抗利尿ホルモン(ADH)である。ADHの分泌が増加したり抑制されたりすると,尿の濃度が大きく変化し,多量の水分を失う脱水症となったりする。腎臓での尿濃縮機能を検査する方法としては,フィッシュバーグ濃縮試験,尿希釈試験,尿比重測定などの方法がある。

(5)その他の試験 腎臓の機能を検査するためのその他の検査に,X線や放射性同位体を用いた検査,さらにCT検査や超音波診断などがある。これらは,左右,片方だけの腎臓機能を調べることができ,上記の検査法とともに併用されることが多い。とくに,造影剤を静脈に注入して腎臓機能を観察する静脈性腎盂(じんう)撮影法(排出性腎盂撮影法ともいう)はよく用いられている。また,核医学の進歩によって,最近は放射性同位体を静脈に注射して,腎臓の排出機能を調べるレノグラムや腫瘍の検索に有用なシンチグラムも行われている。
腎炎 →腎臓
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「腎機能検査」の意味・わかりやすい解説

腎機能検査
じんきのうけんさ

腎臓の機能を調べることで、左右両腎の機能をあわせた全体としての腎機能を測定する総腎機能検査法と、左右両腎の機能をそれぞれ別個に測定する片腎機能検査法とがある。

[加藤暎一]

総腎機能検査法

代表的なものに血中残余窒素測定法、尿素窒素測定法、血清クレアチニン測定法、希釈および濃縮試験、フェノールスルホンフタレイン(PSP)排泄(はいせつ)試験、クリアランス試験がある。血中残余窒素測定法は、血液中に含有される窒素化合物のうちでタンパク質以外のもの(アンモニア、尿素、尿酸、アミノ酸、プリン体、クレアチンなど)を測定する。正常値は1デシリットル中に25~40ミリグラムである。尿素窒素測定法は、尿中の尿素を炭酸アンモニウムに分解し、そのアンモニウムを呈色させて基準液と比較する。正常値は1デシリットル中に8~18ミリグラムである。

 血清クレアチニンは筋肉由来のクレアチンの生理的代謝産物で、糸球体で濾過(ろか)されることによって排泄されるが、通常は尿細管で再吸収も分泌もされないので、この血清クレアチニン測定法は前述の二者よりも鋭敏であり、食事の影響も受けず、腎糸球体機能のよい指標とされる。正常値は男性で1デシリットル中1.1ミリグラム以下、女性で同じく0.8ミリグラム以下である。

 希釈および濃縮試験は水試験ともよばれ、朝1リットル程度の水を飲ませて4時間内に排泄される尿の量と比重を1~2時間ごとに測り、午後はできるだけ水分を制限して翌朝までときどき排泄量と比重を測定する。その測定値の高低から腎機能を判定する。PSP排泄試験は、色素剤を静脈注射して尿に排泄される量を比色計で測定する。正常では2時間以内に60%以上排泄される。クリアランス試験は、腎各部の機能を別々に知ることができる精密検査である。クリアランスとは、1分間に尿中に排泄される物質の量を供給するのに必要な血液量の最小限度を表すものである。検査目的によって種々の薬剤を投与する。臨床的には、前述のクレアチニンの特性から負荷をまったく行わない内因性クレアチニンクリアランスが、ほぼ糸球体濾過率(GFR)として広く用いられる。近年はアイソトープを使ったレノグラムやレノシンチグラムによる検査も行われている。

[加藤暎一]

片腎機能検査法

膀胱(ぼうこう)鏡検査法、静注尿路X線撮影法、尿管カテーテル尿検査法などがある。膀胱鏡検査法は、膀胱鏡でインジゴカルミンが左右尿管口から排泄される時間を測定し、左右の腎の機能を比較する。静注尿路X線撮影法は、造影剤を静脈注射し、左右の腎に時間的に現れる造影状態を調べる。尿管カテーテル尿検査法は、膀胱鏡で左右の尿管にカテーテルを挿入し、両腎からの尿を別々に採取して比重や窒素化合物などをそれぞれについて検査するほか、沈渣(ちんさ)(沈殿物)も検鏡する。

[加藤暎一]

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