日本大百科全書(ニッポニカ) 「イヌリン」の意味・わかりやすい解説
イヌリン
いぬりん
inulin
貯蔵多糖類の一種で、おもにキク科植物(キクイモの塊茎、ダリアの塊根、アザミの根など)に存在する。ダリアの球根の乾燥重量の約4割はイヌリンで、その割合は季節によって若干変動があり、早春にもっとも含有量が高い。球根をすりつぶして熱水で抽出し、その液を冷やすと、イヌリンの沈殿が得られる。白色、無味の球状結晶で、比較的水に溶けやすい。植物体内ではデンプンと同様に、エネルギーを蓄える役目をもつと考えられている。1804年にオグルマの根茎からすでにみいだされており、研究の歴史は古い。イヌリンの構造は、フルクトース(果糖)がβ(ベータ)-1・2-結合で20~40個重合し、フルクトース鎖の還元末端に1個のグルコースがショ糖と同様にα(アルファ)-1・1-結合でつながっている。分子量は約5000。酸とともに加熱するか、イヌラーゼという酵素を作用させると、加水分解して全部フルクトースとなる。たとえば、pH1で37℃の場合、数時間で80%程度分解され、D-フルクトースと少糖類を生ずるが、pH3ではほとんど分解されない。
イヌリンは無害で、生体に投与すると血管壁を自由に通過して細胞外液中に拡散するが、細胞膜は通過できないので、細胞外液量を測定するのに適した物質である。また、腎臓(じんぞう)の糸球体濾過(ろか)能力の試験にも利用される。
なお、動物にはイヌリンを加水分解するイヌラーゼ(イヌリナーゼ)があるので、イヌリンを含むキク科植物などは飼料になるが、人体にはこの酵素がないので、加水分解されず、前述のように試薬として使われる。
[村松 喬]