自律神経薬(読み)じりつしんけいやく(その他表記)autonomic drug

改訂新版 世界大百科事典 「自律神経薬」の意味・わかりやすい解説

自律神経薬 (じりつしんけいやく)
autonomic drug

自律神経自律神経系)や自律神経の支配を受けている器官(効果器官)に働きかけて,自律神経が興奮したとき,あるいはその興奮が遮断されたときにみられる効果を発現する薬物の総称。交感神経興奮薬,交感神経遮断薬,副交感神経興奮薬,副交感神経遮断薬,自律神経節興奮薬,自律神経節遮断薬などが含まれる。

交感神経の興奮は,興奮によって神経の終末から放出されるノルアドレナリンノルエピネフリン)が,効果器細胞上のアドレナリン作動性受容体と結合することによって伝達される。アドレナリン作動性受容体は,アルファ受容体(α受容体)とベータ受容体(β受容体)とに分類されており,器官によって両者の比率に差があると考えられる。各種器官でαまたはβ受容体に興奮が伝えられた結果ひきおこされる反応を整理すると表のようになる。交感神経興奮薬は作用のしかたのうえから次の3群に大別される。

(1)直接受容体に結合して作用を現す薬物(直接型作用薬)で,ノルアドレナリン,アドレナリンイソプロテレノールメトキサミンフェニレフリンなどがこれに属する。

(2)交感神経終末からノルアドレナリンを放出させて作用を現す薬物(間接型作用薬)で,チラミンアンフェタミンなど。

(3)上に述べた(1)(2)の両作用を併せもつ薬物(中間型作用薬)で,エフェドリンはこれに属する。

 直接受容体に結合するタイプの交感神経興奮薬にも,α受容体とβ受容体のいずれに親和性が高いかによって,ひきおこす反応に差が生じる。イソプロテレノールは,主としてβ受容体を興奮させて(β作用),気管支拡張,心臓機能促進などの作用を発現するが,フェニレフリン,メトキサミンなどは,α受容体に働きかけて(α作用),血管収縮とそれによる血圧上昇などをひきおこす。アドレナリンは,α作用,β作用ともに強い。

交感神経の興奮または交感神経興奮薬の投与によって現れる反応を遮断する薬物の総称。αおよびβアドレナリン作動性受容体を遮断するα遮断薬とβ遮断薬のほかに,アドレナリン作動性神経に作用してノルアドレナリンの放出を抑制する薬物が含まれる。

(1)α遮断薬 α受容体を選択的に遮断する薬物。ヨヒンビンジヒドロエルゴタミンフェノキシベンザミントラゾリンフェントールアミンプラゾシンなどがある。高血圧症や末梢血管痙攣(けいれん)の治療に使われる。

(2)β遮断薬 β受容体の選択的な遮断薬として,プロプラノロール,ピンドロール,プラクトロール,その他多くの薬物がある。臨床的には,不整脈,狭心症,高血圧症などの治療に使われる。

(3)アドレナリン作動性神経遮断薬 アドレナリン作動性神経の興奮に伴う伝達物質の放出を抑制して,興奮の効果器への伝達を遮断する。α遮断薬やβ遮断薬と異なり,受容体に直接結合する交感神経興奮薬の作用は遮断できない。グアネチジン,ベタニジン,レセルピンなどの薬物がこれに属する。血管を拡張させ血圧を下げる。レセルピンは,中枢神経にも作用してトランキライザー作用を発揮する。

副交感神経終末から興奮伝達物質として放出されるアセチルコリンが結合して効果器に興奮を伝達する部位,すなわち,アセチルコリン受容体のうちでもムスカリン様受容体と呼ばれるものを興奮させて,副交感神経興奮と同様の効果を発現する薬物をいう。この種の薬物は,アセチルコリン,ムスカリン,ピロカルピン,メタコリンなどのように直接受容体に作用するものと,神経終末から放出されたアセチルコリンを分解する酵素であるコリンエステラーゼを阻害して,アセチルコリンの蓄積をもたらすもの(抗コリンエステラーゼ薬)とに大別される。抗コリンエステラーゼ薬としては,フィゾスチグミン,ネオスチグミンなどがある。副交感神経興奮薬によっておこる反応としては,心拍数低下,気管支収縮,消化管運動亢進,唾液・消化液・気道分泌液などの分泌増加,縮瞳などがみられる。アセチルコリンは,副交感神経終末以外にも自律神経節,運動神経終末,中枢神経系などで興奮伝達物質として作動している。したがって,抗コリンエステラーゼ薬によってアセチルコリンの蓄積がおきた結果現れる作用は,副交感神経興奮作用(ムスカリン様作用とも呼ばれる)に加えて,自律神経節興奮や運動神経興奮に由来する作用(ニコチン様作用とも呼ばれる)および中枢神経系での作用が現れることもある。副交感神経興奮薬は,臨床的には,発汗,縮瞳,腸蠕動(ぜんどう)促進などの目的に使われる。

副交感神経興奮薬によっておこるムスカリン様作用を遮断する薬物。代表的なものとしてアトロピンがあるので,アトロピン様薬とも呼ばれ,抗ムスカリン薬とも呼ばれる。アトロピンは,アセチルコリンが自律神経節,運動神経終末などで発揮するニコチン様作用には影響を与えない。臨床上の用途としては,瞳孔散大,制汗,胃酸分泌抑制,消化管運動抑制,気道分泌抑制などがある。天然アルカロイドとして,アトロピン,スコポラミンがあるが,それらの化学構造を変換して多数の合成代用薬がつくられている。

自律神経節細胞を興奮させる天然アルカロイドとしては,ニコチンとロベリンが古くから知られている。ここから,ニコチン様作用,ニコチン様受容体などの言葉が生まれた。合成薬としては,テトラメチルアンモニウム,DMPPなどがある。治療薬として利用することはほとんどない。

自律神経節細胞のアセチルコリン受容体(ニコチン様受容体)に結合して,アセチルコリン感受性を低下させ,興奮の伝達を遮断する薬物。代表的なものとして,ヘキサメトニウム,メカミラミン,ペントリニウムなどがある。交感神経節も副交感神経節も,ともに遮断する。したがって,交感神経支配が優勢な効果器,たとえば血管系では,交感神経節遮断の影響が強く現れて,血管の拡張と,それにもとづく血圧低下がみられる。他方,副交感神経支配の優勢な消化管では,副交感神経節遮断の影響が強く現れて運動の抑制がみられる。治療薬としては,末梢血行障害の改善,重症高血圧症の血圧降下などに使われる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自律神経薬」の意味・わかりやすい解説

自律神経薬
じりつしんけいやく
autonomic drugs

自律神経系すなわち自律神経節およびそれに続く交感・副交感神経節後線維と,その受容器に働いて,これを興奮させたり抑制する薬物をいう。作用の部位や質によって細分されるが,便宜的には交感神経興奮剤と抑制剤,副交感神経興奮剤と抑制剤に大別される。また,神経線維の化学的分類に従ってコリン作動性とアドレナリン作動性に分ける。コリン作動性の興奮剤はアセチルコリン,ムスカリン,グワニジン,フィゾスチグミン,抑制剤はアトロピン,スコポラミンなど。アドレナリン作動性の興奮剤はアドレナリン,ノルアドレナリン,エフェドリン,ピロカルピン,抑制剤はエルゴトキシン,エルゴタミン,ジベナミン,レセルピン,プロプラノロール,グアネジン,メチルドーパ,ハイドロキシドーパミンなどがある。

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