自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識(読み)じさつたいさくをすいしんするためにめでぃあかんけいしゃにしってもらいたいきそちしき

知恵蔵 の解説

自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識

自殺報道のあり方について、印刷物放送・オンラインの各メディアで働くメディア関係者に向けて作られた指針。自殺のニュースを報道する必要がある場合、どのように自殺を報道するか、また、どのようにすれば正確で、責任のある、適切な報道が確実となるかについて提案している。
2017年に世界保健機関WHO)により公表された「Preventing suicide: a resource for media professionals, update 2017」を、自殺総合対策推進センターが日本語に訳し、19年6月に発行した。08年に公表された「自殺予防 メディア関係者のための手引き」の改訂版
模倣自殺と呼ばれる、新聞やテレビなどのメディアによる自殺報道の後に自殺が増加する危険性は以前から知られていた。さらにインターネット普及とともに、新聞やテレビといった伝統的なメディアだけでなく、ソーシャル・メディアが自殺を誘発する危険性も指摘されるようになった。
同書では、「自殺事例のメディア報道は、後のさらなる自殺関連行動を引き起こす可能性がある」として、自殺関連行動に関するメディアの影響(インパクト)に科学的根拠があることを紹介している。
反面、「メディアガイドラインに沿って掲載されたメディアの自殺報道は、自殺を予防することに役立つ可能性が高く、通常はさらなる自殺のきっかけにはならない」との科学的根拠もあることを紹介している。
それらを踏まえた上で、「どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること」「自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと」など、自殺報道の際に「やるべきこと」を記載一方で「自殺報道記事を目立つように配置しないこと」「自殺をセンセーショナルに表現する言葉を使わないこと」「手段について明確に表現しないこと」など「やってはいけないこと」についても列挙し、責任ある報道のための手引きとしている。
また、インターネットが特に若者や自殺リスクの高い人にとって自殺に関する情報やコミュニケーションのための重要なプラットフォームになっていることに言及し、ソーシャル・メディアにおいて、自殺現場の写真やビデオ映像など、「自殺に関連するデジタル資料へのリンクを用いないこと」という項目も追加されている。
手引き冒頭には、これらの内容を「やるべきこと」6項目、「やってはいけないこと」6項目にまとめた、すぐわかる手引(クイック・レファレンス・ガイド)も添付されている。
同書では、「自殺対策の推進においてメディアの果たす役割はきわめて重要なものである」と指摘。自殺対策におけるメディアの役割について、新聞やテレビ等のメディア関係者、ソーシャル・メディア関係者に理解を求めている。

(星野美穂 フリーライター/2020年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報