ATCとも略称される。航空交通の安全と秩序を図るため,航空機の離着陸の順序・時期,飛行経路などを指示し,気象状況,地上の状態など航空機の運航に必要な情報を提供する業務をいう。飛行情報区の中で管制区または管制圏に指定された空域(管制空域)および飛行場において行われる。航空交通管制の具体的な目的は,航空機相互の衝突予防,空港内および航行空域における航空機と障害物の衝突予防,航空交通の促進と秩序ある流れの維持にある。なお,飛行情報区flight information regions(FIRと略称される)というのは,ICAO(イカオ)の加盟国が,航空交通業務を行う責任の範囲を示すもので,技術的必要性に立脚して定められており,領空とか防衛圏といった性格はない。日本では東京FIRと那覇FIRの二つの空域がその管轄となっている。
高速で飛行する多くの航空機が集約される航空路,ターミナル空域ならびに空港などで,交通を規制する組織の必要性は明らかだが,初めて管制塔がつくられて離発着する航空機に指示を与えるようになったのは,1930年,アメリカのクリーブランド空港においてである。当時は,目的地に飛行するパイロットは地上物標を目視しながら自由にコースと高度を選んでいたが,無線通信が使われるようになり,計器システムが発達するのに対応して,33年,アメリカでNDB(non-directional radio beaconの略。無指向性無線標識)を結んだ航空路が設置された。多くの航空機がこの航空路を利用するようになると,衝突を防ぐため,各航空会社は無線で自社の航空機に対し他の航空機の位置や高度,地点通過の予定時刻などの情報を提供するようになった。やがてこの運航モニター業務を共同して行うことになり,35年にまずニューヨークに航空路管制センターができ,次いでシカゴとクリーブランドに設置された。しかしながら,このサービス業務の性格上,政府機関によって運営されるべきものとして,アメリカ政府は36年,民間の3ヵ所の航空路管制センター業務を引き継ぐことになり,同時に5ヵ所のセンターを設置し,フライトコントロールオフィサーを配置して,アメリカ大陸横断航空路を含む航空路交通管制が始められた。各空港の管制は民間や地方公共団体で運営されていたが,第2次世界大戦中の41年,アメリカの105の空港での管制が政府に引き継がれ,これを契機として,現在の空港と航空路を包含する航空交通管制システムの基礎がつくられた。
戦後46年8月,国際連合の専門機関の一つとして,ICAOが発足した折,世界が同じ方式で航空交通管制を行うための国際基準が制定され,全世界共通基準のシステムとなった。
日本では,第2次大戦後,アメリカ進駐軍が軍用の管制システムを設定したのが初めで,これは51年,民間航空再開後も継続し,日本政府に移管されたのは59年である。その後も米軍方式を踏襲していたが,69年4月,航空管制の基準はICAOの基準に改められた。
→航空保安無線施設
管制圏は管制が行われる飛行場の周辺に設けられ,通常,半径8kmで地表から3000~7000フィートまでの範囲となっている。管制圏内の飛行場に発着する航空機ならびに圏内を通過しようとする航空機は,すべて管制塔に連絡し,その指示を受ける。管制圏に接続する周辺の空域は進入管制区と呼ばれ,計器飛行方式による飛行経路を平面的,立体的に包含するよう,その範囲が定められている。進入管制区の底は管制圏に接する部分で700フィート,その外側は1500フィート,3000フィートなどとしだいに高くなっている。なお,日本国内の2万4000フィート以上は高高度管制区として全面管制区となっている。このほか,管制区,管制圏の一部に特別管制区として指定されている空域があるが,これは交通量がとくに多い空域,あるいは進入,上昇経路など航空機がその飛行過程において危険な状態になる可能性のある空域で,航空機相互の異常接近や衝突を防止するために設けられているもので,この空域を飛行する航空機は計器飛行方式に限られる。
これらの空域の区分や管制方式によって,航空交通管制業務を分類すると次の五つになる。(1)飛行場管制業務 空港に設けられた管制塔において,空港における地上滑走の経路,離着陸の順序・時期・方法などを指示する業務。(2)進入管制業務 主として進入管制区内を計器飛行方式で飛行する航空機に対し,進入・出発の順序,経路,方式の指定や,上昇・降下の指示,進入のための待機指示などを行う。(3)ターミナルレーダー管制業務 これは空港監視レーダー(ASR)を用いて行う管制業務をいい,基本的には進入管制と同様である。最近の交通量の多い空港に設置されているレーダーは,盤面上の航空機を示す光点の傍らに,識別符号,対地速度,高度,管制シンボルなどが英字と数字で表示されるようになっており,さらに航空機相互の針路予定が交差し衝突のおそれがある場合には,自動的に管制官に警報を与える性能をもつものもある。(4)着陸誘導管制業務 着陸する航空機に対し,精密進入レーダー(PAR)を用いて,滑走路端から10km前後の位置からコースと高さを継続的に指示して接地点まで誘導する。いわゆるGCA(ground controlled approachの略)と呼ばれるものであるが,現在はほとんど計器着陸装置(ILS)に置き換えられている。(5)航空路管制業務 空港周辺の空域を除き,飛行情報区内を飛行するすべての計器飛行方式の航空機に対して行われる管制業務で,航空機が隣接する飛行情報区に飛行する場合は,あらかじめ必要な情報を通報し,当該機が支障なく飛行を続けられるように取り計らう。
航空交通管制の実施に際しての基礎となる事柄に,飛行計画,セパレーション,位置通報,管制承認がある。(1)飛行計画flight plan 管制空域を計器飛行方式で飛行する場合には,出発地,目的地,経路,高度,予定飛行時間,積載燃料量など必要な情報を記入した飛行計画を管制機関に提出し,通常,離陸前に飛行計画に基づく承認を受けなければならない。(2)セパレーションseparation 複数の航空機が飛行する場合,安全のため相互の距離間隔をとる必要があり,この間隔のことをセパレーションという。セパレーションは水平横方向,前後方向,上下の3方向を原則とする。通常,横方向は距離(カイリ)で,上下は高度(フィートまたはm),前後は時間(min),または距離で示される。(3)位置通報 現在,航空管制は原則として航空機からの位置通報に基づいてなされるが,レーダーで管制される場合は最初の確認だけで,位置通報を必要としないこともある。洋上では特定の通報点が設定されない場合は経度5°,または10°を通過する時点において報告を行う。項目は識別符号,位置,通過時刻,高度,飛行状態,次の通報位置および予定通過時刻で,必要に応じて対気速度などが含まれる。管制機関は予定通過時刻を過ぎて一定の時間が経過しても連絡がとれない場合は,規定に従って捜索救難活動を開始する。(4)管制承認 航空交通管制のために,航空機側から求められる行動および計画に対する承認ならびに指示をいい,航空機はこの管制承認を得て次の行動(離陸,高度の変更,進入,着陸など)に移る。
以下では計器飛行方式の場合の航空交通管制の手順を述べる。飛行計画を提出した航空機のパイロットは,まず出発準備を終えると飛行計画の承認を得てから,空港の管制塔にエンジン始動の承認を求める。管制官は空港および当該機の目的地への航空路の交通状態を勘案して,適当な時期にエンジン始動の承認を出す。エンジンを始動した航空機は空港の地上管制から滑走路へ至る地上滑走の承認を得て離陸位置に向かう。空港によっては,地上滑走中に標準計器出発方式の承認が出される。適当な時期に地上管制から飛行場管制への切替えが指示され,離陸準備を完了した航空機は,その旨を管制塔に伝え滑走路端手前で離陸承認を待つ。管制塔は着陸機や先行機を勘案して離陸の承認を出し,当該機は離陸を開始する。離陸した機が安定した上昇に入ると管制塔は出発管制への切替えを指示する。出発管制は機が上昇経路を正しく飛行しているかどうかをレーダーで監視し,必要に応じて助言,指示を与え,航空路の出発点へ機を誘導する。機が出入機の多いターミナル空域を脱し巡航高度に達したころ,あるいは適当な時期をみて出発管制は航空路管制に切替えを指示する。通常,ジェット輸送機が巡航高度に達するころまではVHF(超短波)通信を行うが,洋上などVHFの届かない航空路管制通信は短波(HF)が使用される。
目的地に接近すると,航空機は航空路管制から降下の承認を求め,管制は最初の近接地点と高度を指示する。航空機が多い場合はレーダー管制によって適当な間隔をとりつつ降下を指示し,特定の地点から進入管制に引き継ぐ。進入管制はさらに精密に各機の間隔を調整しながら最終進入開始点へ誘導し,飛行場管制に引き継ぐ。飛行場管制は最終進入から着陸までを管制し,着陸後は地上管制が駐機場までを管制誘導する。
なお,有視界飛行方式で飛行する航空機は,飛行場管制が行われている空港においては,駐機場から離陸まで,また到着時は特定の空港接近通報地点,あるいはトラフィックパターンに入る手前で管制塔の指示を受ける。
管制業務におけるレーダーの利用は,ますます多用化,高度化しており,ターミナル管制情報処理システムのレーダーをはじめ,機上の二次レーダーシステムも高度のものとなり,おのおのの識別が可能なものが開発されている。また航空路を監視する航空路監視レーダーは,現在,日本国内の航空路の大部分をカバーしており,さらに完全に全空路をレーダー網で監視できるよう整備が進められている。
執筆者:長野 英麿
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(鳥養鶴雄 元日本航空機開発協会常務理事 技術士(航空機部門) / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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