頭文字をとってILSと略称される。電波を利用した航空機の着陸誘導システム。航空機の着陸に際し,夜間や霧,雨などの悪天候下で空港周辺の視程が利かない場合,電波を用いて航空機を滑走路に誘導するための方法または装置がいくつかある。この中でILSは従来用いられてきた地上レーダーと管制官による着陸誘導方式(GCA。ground-controlled approachの略)に代わり,精度が高く,人的過誤を最少にとどめ,かつ機上の自動操縦装置と連動することにより,自動近接あるいは自動着陸を可能にするものとして開発された。1952年ICAO(イカオ)で,ILSに関する国際基準が制定されて以来,世界的にもっとも広く使用されており,日本では,61年10月に羽田の東京国際空港に設置されたのを初めとし,現在では全国の主要空港に配置されている。
ILSはローカライザー,グライドパス,マーカービーコンの三つの装置から構成されている。(1)ローカライザーlocalizerは滑走路中心からの左右のずれを示すための装置である。滑走路中心線の前方(進入する航空機から見て)に設置され,アンテナから108~112MHzのVHF帯の指向性電波を発射し,左右2.5度の幅を有する進入路を形成する。進入方向に対し左側が90Hz,右側が150Hzで変調されていて,中心線部分で両者の変調度が等しくなるように放射電場が設定されており,左右にずれるに従い変調信号が強くなり機上の計器上に変位度を示す。(2)グライドパスglide pathはグライドスロープglide slopeとも呼ばれ,適切な進入角を示す。滑走路の接地点付近(通常滑走路手前端から300m)の傍らに設置され,328.6~335.4MHzの指向性マイクロ波の放射電場により,接地点より通常2.5~3度上向きの進入路を形成する。グライドパスに対し上方が90Hz,下方が150Hzで変調されており,機上計器への変位指示はローカライザーと同様である。滑走路端におけるグライドパスの高さは最低50フィート(1フィートは約0.3m)を基準とし,その許容誤差は通常±10フィートだが,着陸のデシジョンハイト(最終決定高度,後出)が,200フィート未満のカテゴリーII,同じく100フィート未満のカテゴリーIIIの場合は許容誤差がそれぞれ+10フィート,-0フィートとなり,滑走路端において飛行機の車輪との間隙(かんげき)が確保されるようになっている。(3)マーカービーコンmarker beacon(単にマーカーともいう)は進入コース直下の定められた位置に設けられ,上方に向け特有の指向性変調電波(75MHz)を発射し,上空通過時に操縦室内の計器板上のライトの点灯および変調音で,パイロットに通過位置を知らせる。原則として滑走路端から1000フィートの位置にインナーマーカー(変調周波数3000Hz),約3500フィートにミドルマーカー(1500Hz),約5~6マイル(1マイルは約1.6km)にアウターマーカー(400Hz)が設置される。通常,民間空港ではインナーマーカーは施設されていないし,地勢などの関係で空港によってマーカーの位置が前後するが,進入図には必ず明記される。また海上などマーカーの設置が困難な場合,距離測定装置(DME)が代りにILSに併設され,位置情報をパイロットに伝えることが多い。最近ではマーカーがあってもDMEを併設する場合が増えている。
ICAOでは,ILSを利用して全天候運航を行う場合,運航および施設の条件を3段階のカテゴリーに分けて,世界的な基準の統一を図っている。概要としてはILSの設置基準,許容誤差,進入灯および滑走路灯基準,機上装備,パイロットの資格などが,気象条件に応じてそれぞれ細部にわたり規定されている。着陸進入中,パイロットはある高度に達した時点で着陸をするか,復航をするか決めなければならない。この高度をデシジョンハイトdecision height(D.H.)という。カテゴリーⅠでは視程が0.5マイル以上で,D.H.は200フィート以上である。カテゴリーⅡでは視程が0.25マイル以上,D.H.は100フィート以上であり,カテゴリーⅢはa,b,cと細分されるが,条件はカテゴリーⅡ以下で視程0,D.H.0までとなっている。
ILSでは滑走路延長線上には1本の進入経路しか形成できないなど,全天候運航計画が進み,自動着陸をする航空機が増えるに従って機能的に対応しきれなくなってくる。このためマイクロ波を用いた精密着陸誘導装置が開発され,1979年に,ICAOでその仕様国際基準が決定された。これがマイクロ波着陸装置microwave landing system(MLS)と呼ばれるものである。MLSは,マイクロ波を使うのでビームの直進性,安定性にすぐれ,航空機の位置に関する精度が高く,滑走路周辺の地形や建物などによる影響が少なく,進入角の変更,曲線進入が可能で,自動着陸進入機間の間隔縮小などの機能をもち,運航上の利点はILSよりはるかに大きい。
執筆者:長野 英麿
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「ILS」のページをご覧ください。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…滑走路に最終進入する航空機を誘導するためのレーダー装置で,あらかじめレーダー面に設定されている進入コースおよび進入角に沿って,レーダー管制官が機首方位,降下率,接地点までの距離などをパイロットに伝え,ずれを修正しながら航空機を滑走路まで誘導する。 計器着陸装置ILS(instrument landing systemの略)ともいう。指向性の電波を利用して,滑走路に着陸進入する航空機の計器に進入コースおよび進入角を表示する装置。…
…しかし,NDBは空電の影響を受けやすく,また悪天候の場合には指度が不正確になるという欠点があり,さらに性能のよいVORが開発されるとともに,現在では,この360度全方位を識別できるVORと距離を自動的に計測できる距離測定装置(DME)が航空路の主要施設となっている。また悪天候や夜間の着陸誘導装置についても,第2次大戦中にアメリカでGCAが開発されたのをはじめ,より確実な計器着陸装置(ILS)の実用化など電波の利用が進み,さらに航空交通管制システムにも種々のレーダーが導入され,航空保安施設の中で電波を利用した施設の比重は増大している。
[種類]
航空保安無線施設は機能面から,(1)飛行中の航空機の自機の位置の測定ならびに針路決定を援助する施設(無線航行援助施設),(2)航空機が計器飛行によって進入ならびに着陸をする際に滑走路へ精密誘導をする施設,(3)航空交通管制に必要な情報の把握および機上のパイロットへ情報を提供する施設,(4)空地間の無線通信を行うための施設の四つに分類することができる。…
※「計器着陸装置」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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