主として飛行場に着発する航空機を、安全かつ能率的に誘導すること(飛行場管制という)をおもな目的として設置された塔状の施設。ときにはその働きをさし、コントロール・タワー、省略してタワーとよばれることもある。
[落合一夫]
飛行場において計器飛行条件(IFR=instrument flight rule)にしろ、有視界飛行条件(VFR=visual flight rule)にしろ、管制圏を離れて飛行場へ進入を開始した航空機を飛行場へ導き、滑走路への進入および着陸、さらにスポット(駐機場)の指定、およびその地点までの滑走などの管制を行う。また出発しようとする航空機の、スポットから離陸地点までの滑走や離陸の承認、離陸後の航空機の管制を飛行場周辺(飛行場管制圏という)から、コントロールセンターの管制に移管するまで、すべての交通管制に関する業務を担当する。このほか、飛行場管制圏内を飛行するすべての航空機の管制、および飛行場内のすべての航空機、車両、歩行者の移動に関する管制を行い、さらに気象庁との間で取り決めた範囲内での気象情報(大気情報、つまり風向、風速、気温、気圧、雲量、雲高、滑走路視程、天候その他)の通報、緊急時の救難活動(救急車、消防車の出動要請など)の業務を行う。
[落合一夫]
管制塔は、その性格から飛行場の中心部のもっとも見通しのよい場所に設置されるが、ことに空港の場合は、ターミナルビルと並んでもっとも目につく存在であるため、しばしば空港の象徴として、機能はもとより、高さや形に対し空港ごとに独得のデザインが施され、威容を誇っている。管制塔の内部は、有視界飛行状態の航空機を管制するための気象状態受信器、標識信号聴取器、航空灯火つまり滑走路灯、誘導路灯、進入灯などの点滅装置、表示板、無線電話器、灯火信号機、場内探知レーダーなどを備えたVFRルームと、計器飛行条件で飛行する航空機を管制するGCA(地上誘導着陸装置)、ILS(計器着陸装置)をはじめ、ARSR(航空路監視レーダー)や、航行を援助する電子機器を操作するIFRルームとに分けられている。つまり空港の象徴として外からみえる四方ガラス張りの部分はVFRルームで、機能の一部にすぎないのである。なお、VFRルームの窓ガラスの広さや取り付ける角度については、それぞれ設置に対して細かい規定が設けられている。
管制塔内の組織については、飛行場管制席と補助管制席に大きく分けられるが、大きな空港では、飛行場管制席がさらに飛行場管制席と地上管制席とに細分しているところもある。このうち飛行場管制席は飛行場周辺の航空機に対する管制を行い、地上管制席は地上にある航空機、車両、歩行者の管制を担当する。地上管制席のない飛行場では、飛行場管制席がその業務を兼務する。補助管制席は、前述の気象および大気情報の伝達、救難活動の要請等の業務を担当する。
[落合一夫]
こうした業務を行う管制塔、あるいは飛行場の管制部に所属し、航空交通管制の業務に従事する係官を航空管制官、略して管制官という。管制官になるには二つの方法がある。一つは一般から募集されて規定の試験に合格したのち、国土交通省(旧運輸省)に設けられた養成施設(航空保安大学校)に入り、卒業後、6か月の実地研修を経て、国土交通省所管の技能試験に合格する方法である。他のコースとしては、国家公務員中級職試験に合格後、航空保安職員研修所で6か月の研修を経て、前者と同様に国土交通省所管の技能試験(いわゆる航空従事者国家試験)に合格することによって、その資格を得ることができる。
航空機は年々大型化、高速化し、さらに路線や便数が増大しているが、それとともに、空港周辺における航空機どうしの衝突の危険性や騒音の影響が大きくなってきている。また航空会社としては、経費節減のために天候や時刻に関係なく定時性を強く要求するなど、交通管制を複雑化させる要素は年を追って厳しくなっており、また万一の事故の際の責任も重大化する一方で、管制官の業務はかなりの激職となっている。このため交通管制にコンピュータを導入して、自動化を進め、心理的、肉体的な負担の軽減に努めている。
[落合一夫]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…現在では民間輸送機は晴天のときでも計器飛行方式で飛ぶことが多いので,輸送機の発着する空港にはほとんど管制所が設けられている。管制所では管制官が直接航空機を見ながら作業をする管制塔airport control tower(control tower)と,レーダーによって監視・誘導を行うレーダー管制室とが協力して管制にあたる。管制塔は空港内全域と周辺の空域を360度見渡せる位置,高さ,構造が要求され,なかには長崎空港やシンガポールのチャンギー空港のように,隣接する二つの飛行場を同時に見渡せるよう60~80mの高さをもつものもある。…
…日本では東京FIRと那覇FIRの二つの空域がその管轄となっている。
[航空交通管制の歴史]
高速で飛行する多くの航空機が集約される航空路,ターミナル空域ならびに空港などで,交通を規制する組織の必要性は明らかだが,初めて管制塔がつくられて離発着する航空機に指示を与えるようになったのは,1930年,アメリカのクリーブランド空港においてである。当時は,目的地に飛行するパイロットは地上物標を目視しながら自由にコースと高度を選んでいたが,無線通信が使われるようになり,計器システムが発達するのに対応して,33年,アメリカでNDB(non‐directional radio beaconの略。…
※「管制塔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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