改訂新版 世界大百科事典 「船舶トン数」の意味・わかりやすい解説
船舶トン数 (せんぱくトンすう)
ship's tonnage
船の大きさを表す単位としてトン数が用いられるが,これには大別して船の大きさの指標であるトン数と,重量を表すトン数とがある。前者のトン数は船の容積を基として算出され,総トン数,純トン数,運河トン数などの区別があるが,あくまでも大きさの指標であって物理的な意味の単位ではない。後者の重量を表すトン数には排水量,載貨重量などがあり,この単位は重量のトンである。このように船のトン数が紛らわしいのは,その起源に歴史的な経緯があることと,意味が異なるにもかかわらず同じトンという言葉が使われることによっている。容積を基とするトン数は概念的に船の大きさを表したり区分けしたりする場合に用いられるもので技術的な意味は薄い。一方,重量のトン数は船の航海性能と深い関係があるため技術的に重要なものであり,また貨物の積載量と関係があるため経済性とも関係がある。
トン数の変遷
船舶トン数の定め方は船独特の歴史的経緯があり,その起源は15世紀ごろで,船に積む酒樽の大きさに由来するといわれる。船に積まれた樽をトントンたたきながら数え,その数で船の大きさを示すトン数としたという説もあり,この樽の占める容積がほぼ100立方フィートであったとか,酒を満たした樽の重量がほぼ2240ポンド(1英トン)になったとかいわれている。しかし,船の容積を表すトン数と重量を表すトン数とはまったく別のものである。従来,容積を表す総トン数,純トン数などは100立方フィート(2.833m3)が1トンと定められていたが,1969年,船舶のトン数測度に関する国際条約の発効以後,日本では82年から新しいトン数測度を用いるよう法律が改正され,各国ごとのトン数の差もほとんどなくなった。
種類
(1)総トン数gross tonnage 記号GT。船の大きさを表す指標としてもっとも一般的に用いられるものである。総トン数は船のすべての閉囲場所の合計容積から一定の計算式で求められる。閉囲場所とはみなさずに除外できる部分について細かい規程が定められている。新方式は旧方式に比べて容積の計算方法が容易にできるよう改められており,また新旧両方式によるトン数があまり変わらないように計算式が配慮されているため,おおよそはやはり1トンが100立方フィートになると考えてよい。総トン数は関税,登録税をはじめ船舶検査や引船,入渠(にゆうきよ)などの手数料の基準として用いられ,また船の諸設備も総トン数に応じて定められているものが多い。
(2)純トン数net tonnage 記号NT。船の貨物,乗客などによる収益能力を表す指標であって,貨物場所の容積,旅客数およびその他の主要目の値から一定の計算式で求められる。総トン数と同様に,新旧両方式の差があまりないように計算式がたてられている。純トン数は船の収益に関係する税金,手数料などの基準として用いられる。
(3)運河トン数canal tonnage スエズ運河およびパナマ運河ではそれぞれ特別の規則によって,総トン数と純トン数を定めており,これを運河トン数という(スエズ運河トン数,パナマ運河トン数)。両運河の通航料はこの運河トン数で定められるため,これらの運河を通航する可能性のある船はあらかじめ建造時に運河トン数を算定し,運河トン数証書を得ておく場合が多い。
(4)排水量displacement 水に浮いた物体の重量は排除した水の重量に等しいから,排水容積(船体の水面下の容積)に水または海水の比重を掛けたものは船の総重量であり,これを排水量という。排水量の大きさは船の速度,馬力,燃料消費量をはじめいろいろの航海性能に影響を及ぼし,貨物を積めば排水量は増し,船内の水や燃料を消費すれば排水量は減少する。このように排水量は船の積載状態で変化するため,技術的な意味で用いられるだけで一般に船の大きさを表す単位としては使われない。しかし軍艦のように積荷による変動がないか,あるいはごくわずかの場合にはその船の大きさ(重量)を表す単位として排水量が適しており,基準排水量はその意味で用いられる。
(5)載貨重量dead weight 記号DW。排水量は変化するが,船の喫水は制限されているため,これを越えて貨物などを積むことはできない。船が夏季満載喫水線まで沈んでいる状態(満載状態)の排水量と,貨物などがまったくなくて最低限の水や艤装(ぎそう)品だけが載っている状態(軽貨状態)の排水量との差を載貨重量という。つまり船が積載できる総重量であるから,貨物船について積載能力の大きさを表すのにもっとも適したトン数であり,とくにタンカーやばら積専用船のように,1種類の均質な貨物を大量に輸送する船では載貨重量トン数を用いる場合が多い。
トン数に関する注意
以上のように各種のトン数の意味はまったく異なるため,これを使用するときは総トン数○○トンまたは○○GT,載貨重量△△トンまたは△△DWトンと表現しなければならない。何も区別されていない場合は一応総トン数と考えられるがあまり信用はできない。
総トン数は純トン数より大きく,満載排水量は載貨重量より大きいことは明らかであるが,大きさの指標のトン数と重量トン数との関係は船の種類,大小などにより変わるため一概にはいえない。とくに船の種類が多様化し専用化した現在では,各トン数の間の関係はあまり意味がない。ただ,積載するものの平均的な重さ(容積当り)は,鉱石専用船,ばら積船,定期貨物船,コンテナー船,自動車専用船,客船の順に軽くなるため,例えば同じ総トン数であれば,この順に満載排水量は小さくなり,また排水量に対する載貨重量の割合も小さくなると考えてよい。また重量を表すトン数に対しては,いまだにメートル法のトン(1000kg),英トン(2240ポンド≒1016kg),米トン(2000ポンド≒907.2kg)が使われているため注意する必要がある。
執筆者:翁長 一彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報