元来はヒシの実を粉にしてついた餅。また「雛(ひな)の餅」ともいう菱餅は、のし餅を菱形に切った餅のことで、白餅のほか紅、黄、緑色に染めた菱餅を3月3日の桃の節供に供えた。菱形餅ともいう。ヒシの実は池沼などに自生するアカバナ科の一年生水草の実で、風味が栗(くり)に似ているところから水栗ともいわれる。含め煮やきんとんにしたほか、飯に炊き込んで食したが、「君がため浮沼(うきぬ)の池の菱とると……」(万葉集)と詠まれており、食用に供した歴史はかなり古くまでさかのぼることができる。
菱餅は菱葩餅(ひしはなびらもち)と同義とされる。菱葩餅は白い飳(ぶと)形の餅の内側に紅色の薄い菱形餅を重ねるが、菱餅はその簡略化された姿である。菱葩餅に重ねる菱餅も、もともとはヒシの実そのものを挟んだものであった。宮中で正月の供饌(ぐせん)料であった菱葩餅つまり菱餅が、桃の節供に用いられるようになったのは江戸中期以降で、菱餅が女性を象徴する形だからといわれる。菱餅は白、緑の二重、白、緑、黄の三重、白、緑、紅、白、黄の五重にして供えるが、大きさは均等にする場合と、上の重ねほど小さくする場合がある。重ね方や色のあわせ方は地方により異なっている。
[沢 史生]
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