餅菓子の一種。ハハコグサやヨモギなどを入れて搗(つ)いた餅。平安時代には3月3日に婦女子がハハコグサを採取して蒸し、餅に搗き込んだことが『文徳実録(もんとくじつろく)』の850年(嘉祥3)に記されている。6世紀に著された中国の『荊楚歳時記(けいそさいじき)』には、3月3日にハハコグサ(漢名は鼠麹菜(そきくさい))の汁を蜜(みつ)とあわせ粉に和するとあり、これを食すれば邪気を払い、疫病にかからないとされた。ハハコグサのかわりにヨモギを用いるようになったのは室町時代からとみられ、幕府は、将軍に対面する諸侯に、この日よもぎ餅と杯を下賜している。また江戸時代初期の雛(ひな)遊びには、毛氈(もうせん)などの上に紙雛を並べ、駕籠(かご)、屏風(びょうぶ)、銚子(ちょうし)、行器(ほかい)とともによもぎ餅を入れた絵櫃(えびつ)を飾ったが、幕末近くなると絵櫃は廃れ、菱台(ひしだい)に菱餅を飾るようになった。菱餅は、よもぎ餅を中心に白・青・紅、白・青・黄などが三重あるいは五重に飾られた。3月3日を草餅の節供ともいうほど、行事における草餅の意義は大きい。各地の門前町の名物土産に草餅、草団子があるのも、邪気を払う縁起物だからであるが、一般的にはほろ苦みと春の香気を伝える餅菓子として餡(あん)餅やきな粉餅にした草餅が賞味されてきた。
草餅の製法には2通りある。一つは、蒸した糯米(もちごめ)とヨモギを搗き混ぜて餅としたもので、主として切り餅に供され、菱餅もこの製法による。もう一つは、粳(うるち)米粉をこねて蒸し、別にゆでて細かく刻んだヨモギを混ぜ、搗き上げたもので、餡餅などに用いる。昔は京坂でよもぎ餅、関東で草餅と称した。
[沢 史生]
ヨモギの葉をつきこんだ餅。《荆楚歳時記》によると,6世紀ごろの中国では3月3日にハハコグサの汁と蜜(みつ)を合わせ,それで粉を練ったものを疫病よけに食べる習俗があった。これが伝えられたのであろう,平安初期の日本でも3月3日の節供にはハハコグサ入りの餅をつくっていた。それがいつヨモギに変わったかは明らかでないが,三条西実隆は天文2年(1533)3月3日に〈蓬餅(よもぎもち)〉をもらったことを記録している。現在の草餅には2種類あり,一つは蒸したもち(糯)米にヨモギをつきこんだもので,雛祭のひし餅とする。もう一つは,ゆでたヨモギをすりつぶし,蒸した上糝粉(じようしんこ)に加えてついたもので,中にあんを入れたり,小型のだんごにして,あんやきな粉をつける。東京柴又の草だんごは後者。
執筆者:鈴木 晋一
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…春,荒地の枯草の中にいち早く緑色の姿を見せるのがヨモギ(カズザキヨモギ)A.princeps Pamp.である。この若苗を摘んで,ゆでて,餅に入れたものが草餅,だんごに入れたものがよもぎだんご(草だんご)である。独特の風味があり,なつかしさを覚える春の風物詩である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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