薫蒸(読み)くんじょう(英語表記)fumigation

改訂新版 世界大百科事典 「薫蒸」の意味・わかりやすい解説

薫蒸 (くんじょう)
fumigation

密閉空間で薬剤をガス状態にして一定時間保持し,有害生物を駆除する方法。主として貯蔵穀物ならびに製品に繁殖する貯穀害虫類の駆除に使われるが,果実,葉タバコ,木材害虫駆除,穀物,香辛料殺菌土壌消毒などにも使われる。倉庫内に投薬された薫蒸剤は徐々に気化してガスとなり,ガスは倉庫内にしだいに拡散し,倉庫全体に広がる。ガス濃度が高まると,ガスは穀物の狭い間隙(かんげき)中に浸透していくが,浸透したガスの一部は穀物の表面に収着されてしまい,残りがより深く浸透していく。このように浸透と収着を繰り返して,薫蒸ガスは全体に浸透する。なお拡散したガスの一部は倉庫の壁,床にも吸着され,また一部は倉庫の気密の程度に応じて庫外に漏洩(ろうえい)する(したがって倉庫の気密度と目張りに注意することが重要)。このような過程を経て,投薬したガスの一部だけが穀物の内部にひそむ害虫や病菌まで到達し,そこで初めて殺虫作用もしくは殺菌作用を発揮することになる。薫蒸に際しては,薫蒸剤,薬量,時間を選択し,必要に応じてかくはん,加温などの補助手段を用いる。薫蒸ガスは有毒で,高濃度では致死,低濃度でも各種の障害を招く危険があり,作業のときは所定のガスマスクを着用する。また労働安全衛生法の規定により,薫蒸作業主任者の資格が必要とされる。
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ガス状態で殺虫,殺線虫,殺菌効果を示す農薬をいい,収穫物薫蒸剤,土壌薫蒸剤に大別される。収穫物薫蒸剤は倉庫などに貯蔵されている収穫物を病害虫からまもるために用いられる薬剤で,臭化メチルは殺虫剤として,酸化エチレンは殺虫・殺菌剤として作用する。また倉庫の薫蒸にリン化アルミニウム(商品名ホストキシン)が使われるが,これは空気中の水分と反応して発生するリン化水素の殺虫作用を利用したものである。土壌薫蒸剤は土壌害虫,土壌線虫,土壌中の植物病原菌の殺滅に用いられるもので,臭化メチル,DCPI(商品名ネマモール),D-D剤(非登録)などの低級ハロゲン化アルキル類は殺線虫剤として,クロルピクリン,カーバム剤(商品名NCS)は殺線虫,殺菌剤として作用する。また青酸ガスはかつてはかんきつ類の立木薫蒸などに用いられたが,近年は新しく開発された散布剤におきかえられ,現在ではあまり用いられていない。

 薫蒸剤に似た薬剤に薫煙剤smokeがある。これは助燃剤や加熱剤と農薬を混合したもので,点火・燃焼させると発生する熱で有効成分が煙となって蒸散し,作用を発揮する。ジョチュウギク成分や合成ピレスロイドを主剤とした蚊取線香のような製剤や,ダイアジノン(商品名ダイアジノン,エキソジノン),DDVP(商品名DDVP,ホスビット)などの有機リン酸エステル系殺虫剤や,BCPE剤(非登録),クロルベンジレート(非登録),テトラジホン(商品名テデオン)などの殺ダニ剤,イオウ,TPN剤(商品名ダコニール),アニラジン剤(商品名トリアジン)などの殺菌剤を主剤にした薫煙剤が知られている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

普及版 字通 「薫蒸」の読み・字形・画数・意味

【薫蒸】くんじよう

熏蒸

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