アシル基の普遍的な担体(輸送体)であり、代謝における中枢分子の一つ。分子式C21H36N7O16P3S、分子量767.55。1953年F・A・リップマンは、酵素が触媒する多くのアセチル化には、ある熱に安定な補因子が必要であることを発見した。この補因子は補酵素A(coenzyme A, CoA)と名づけられた。この「A」はアセチル化acetylationの頭文字からきている。補酵素Aは単離され、数年後にその構造が決定された。補酵素Aの末端にあるSH基(スルフヒドリル基、メルカプト基、チオール基ともいう)が反応部位である。アセチル補酵素Aは高いアセチル化能(アセチル基転移能)をもっている。
補酵素Aは、炭素が2個から24個、あるいはもっと長い単位からなる、さまざまな大きさの活性型アシル基を運ぶ。また、エネルギーの減損や生成、あるいは生合成のために活性型のアセチル基を供出することができる。たとえば、ある種のタンパクは長い鎖状の脂肪酸アシル基をつけ、それを使って二重層膜に根を下ろすことができる。そのほか、脂肪酸酸化、脂肪酸合成、酸化的脱炭酸反応に補酵素として作用する。パントテン酸→4-ホスホパントテン酸→4-ホスホパントテニルシステイン→4'-ホスホパンテテイン→補酵素Aの経路で生合成される。システインに由来するSH基がアシル基の担体として働く。SH基とアシル基の結合は高エネルギー結合で、ATP(アデノシン三リン酸)のリン酸結合のエネルギーに相当する。したがって、この結合には高エネルギーの供与を必要とする。
アミノ糖のアセチル化は、リン酸エステルまたはヌクレオシドジリン酸エステルの段階でアセチル補酵素Aが使われる。
脂肪酸の分解は炭素2個ずつの断片が順次外れていくが、反応の基質は遊離脂肪酸ではなくて、脂肪酸のカルボキシ基(カルボキシル基)と補酵素AのSH基が結合したものである。また、遊離してくる炭素2個の断片も、アセチル補酵素Aの型である。
飽和脂肪酸から不飽和脂肪酸への反応では、飽和脂肪酸アシル補酵素AとFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)を基質とする反応で、まず2-β(ベータ)-不飽和脂肪酸アシル補酵素Aが生成される。
好気的条件、すなわち酸素の供給が十分な条件下では、ピルビン酸は酸化的に脱炭酸されてアセチル補酵素Aと炭酸ガスとになる。この過程は非可逆的で、このようにしてできたアセチル補酵素Aはクエン酸回路や脂肪酸の合成などに利用される。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…リップマンF.Lipmannが生体内におけるアセチル化反応に関与する活性酢酸の挙動を研究している最中に,耐熱性の因子としてこの物質を発見した(1947)。補酵素Aとも呼ばれ,CoA(コエー)と略記する。微生物から高等動物にわたって広く分布している。…
※「補酵素A」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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