日本大百科全書(ニッポニカ) 「西沢立衛」の意味・わかりやすい解説
西沢立衛
にしざわりゅうえ
(1966― )
建築家。東京都生まれ。1988年(昭和63)、横浜国立大学工学部建築学科を卒業。1990年(平成2)、同大学院を修了。同年、妹島和世(せじまかずよ)建築設計事務所入所。1995年から妹島と共同設計を開始し、西沢は若くして存在が知られるようになった。1997年、西沢立衛建築設計事務所を設立。2001年、横浜国立大学助教授。2010年横浜国立大学大学院Y-GSA教授。西沢個人の設計活動を始めながら、妹島との共同事務所SANAAも並行して継続し、ユニットと個人を両立するという活動の形態をとる。妹島との共作では、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー・マルチメディア工房(1997。日本建築学会作品賞)やM-HOUSE(1997)など、多くの作品を発表したが、西沢個人としての作品は少ない。いくつかの住宅と展示空間のインスタレーションだけである。
西沢の住宅作品ウィークエンドハウス(1998)は、単純な正方形の閉じた黒い箱であり、窓がほとんどない。そこに三つの光庭(こうてい)(採光のための中庭)を設け、均質な内部空間の性格に変化を与える。この住宅では、窓から外の風景を見るのではなく、内部の光庭のガラスを通して、外部の自然があいまいに映る。さらにそれは天井のプラスチックシートに映り、外の風景が室内で増幅される。西沢は、間接的な映像と実物が混じりあい、生活が継ぎ目なく連続する空間を目ざした。
個展「環境とかたち」(2000)のインスタレーションでも、展示室を真っ白に塗り、一見何もない均質な美しい空間をつくった。しかし、壁の表面には小さな数字や文字で、各ポイントの温度、照度、風速、汚れが記入され、それらが数値化されデータの等高線として重なり合うことで細部において不均質なものが現れる。ポスト・モダンの建築は、明白に異質な複数の要素を用い、近代建築の均質空間を批判した。しかし、西沢は均質空間を徹底させることで、その内部に浮かびあがる微小な差異を暴(あば)く。
西沢は、近代建築がやり残した可能性を追求するかのように、わずかな操作によって、近代的な空間をねじ曲げ、異質なものに変容させる。外観はそっけないが、デザインの放棄ではない。内部から空間をねじ曲げている。市川アパートメントのプロジェクト(2001、千葉県)も、矩形(くけい)の輪郭をもつが、各住戸は激しくうねる壁によって分割されている。妹島和世とともに2002年、アーノルド・ブルンナー記念建築賞受賞。
SANAAの建築作品としてはほかに古河(こが)総合公園飲食施設(1998、茨城県)や飯田市小笠原資料館(1999)などがあり、そのほか西沢個人の作品として平行四辺形の平面をもつ鎌倉の住宅(2001)などがある。共著書に『空間から状況へ』(2001)などがある。2010年、SANAAとしてプリツカー賞受賞。
[五十嵐太郎]
『ギャラリー・間編、五十嵐太郎・西沢立衛他著『空間から状況へ』(2001・TOTO出版)』▽『安東孝一著『New Blood』(2001・六耀社)』▽『二川幸夫編、妹島和世・西沢立衛著『妹島和世+西沢立衛/SANAA works 1995-2003』(2003・TOTO出版)』▽『妹島和世・西沢立衛著『妹島和世+西沢立衛読本 2005』(2005・エーディーエー・エディタ・トーキョー)』▽『妹島和世・西沢立衛著『妹島和世+西沢立衛/SANAA 金沢21世紀美術館』(2005・金沢21世紀美術館、TOTO出版発売)』▽『EL Croquis 77; Kazuyo Sejima 1988-1996 (2000, EL Croquis, Madrid)』▽『EL Croquis 99; Kazuyo Sejima + Ryue Nishizawa 1995/2000 (2000, EL Croquis, Madrid)』