室内や中庭に昼間の自然光(昼光)を適切にとり入れて,ものの見やすい環境を形成したり,明るい雰囲気を演出する建築技術のこと。人工の光源を用いる人工照明に対して,自然照明または昼光照明ともいう。有効な採光を行うためになされる建物の配置・形状,窓の大きさ・形・位置・材料,室内表面の仕上材料・色彩などに関するくふうを採光設計という。
昼光の源は太陽である。太陽から放射され地球に到達する光は,一部大気層で散乱または吸収され,残りは直射日光として地表に届く。大気層で散乱または吸収された光は,直接,あるいはさらに散乱,吸収を繰り返した後に,一部は青空光として地表面に達し,一部は再び大気圏外に去る。曇天の場合は,雲による拡散透過や反射を経た曇天光が地表面に到達する。青空光と曇天光を総合して天空光と呼び,直射日光と天空光を総合して昼光と呼ぶ。太陽によって与えられる明るさは,大気圏外の法線面では平均12万6800lx,季節や天候に左右されるが地表面でも数千から数万lxであるから,昼光はきわめて大きな照明のための自然エネルギーであるといえる。
昼光照明の特色は,自然性と変動性にある。人類は昼光に条件づけられて進化してきたので,人間の生活には昼夜を反映したリズムがあり,生体の内部においても,それに対応した変化が生じている。このように,人間の生活と昼光の間には本質的に不可分な側面がある。開口部からの昼光の導入は,外部の自然との継続的な接触を意味し,単に明るさを与えるだけでなく,きわめて人間的な要求である眺めや天候に対する関心も満たしてくれる。分光分布に偏りのない昼光は,もっとも自然な光色に感じられるし,昼光の下に見る事物の色は正しい色彩と受け取られる。また,時々刻々明るさの変化する環境では,生き生きした雰囲気を維持しやすく,居住者や作業者は単調感や倦怠感に陥ることなしに生活や仕事を遂行できる。反面,昼光照明の欠点や限界が指摘できる。時間的に安定した照明条件,空間的に均整な照明条件を強く求められる工場などにおいては,自然光の変動性は不つごうであり,詳細で規則性のある条件設定を可能にする人工照明に頼ることとなる。とくに,直射日光は方向性が強く,部分的に強烈な照射をしやすいので,不用意な採光は,よい環境の形成を妨げるばかりでなく,種々の害を及ぼす恐れがある。直射日光に多く含まれる紫外線は健康に有用な働きを有するが,過剰な紫外線は白内障,皮膚炎などの原因ともなるし,化学作用によって敷物,家具の退色,汚損を引き起こす。採光に必然的に伴う熱,空気,音などの要素が,機械的な環境制御にとっての外乱となることも多い。
構造上開口の取りにくい石や煉瓦の組積式構造が主体の西洋建築の発達の歴史は,壁体を荷重からいかに解放して採光を行うかのくふうの連続と見ることができる。古代エジプトの神殿建築の採光は,列柱の上部に設けられた高窓によって行われ,はめ込まれた石の格子が太陽光の入射量を調節していた。古代ローマで発達したアーチは,荷重を左右にふり分けて流す画期的な技術で,建築の開口部の拡大におおいに寄与した。中世のロマネスクからゴシックの建築技術の発達は,ボールト架構技術の発達であった。ゴシックの大聖堂の美しいステンドグラスをはめた高窓は,尖頭リブ・ボールトとフライング・バットレスという構造技術によって可能となった。近代建築を成立させている鉄やコンクリートは,さらにこのような構造的可能性の範囲を広げ,今日では,ガラスのカーテンウォール建築など,全面窓ともいえる建築構造を出現させている。
構造と並んで採光の発達に関する要因は,光の透過材料としてのガラスである。ガラスはきわめて古い材料であり,古代ローマなどではすでに窓材料として使用されていたと伝えられるが,高価で貴重な材料であって一般に普及していたわけではない。しかし,中世から近代にかけて,ガラスの製法が非常に発達し,生産量も多くなり,世俗の建築にもガラスがしだいに使用されるようになった。やがてガラスをはめ込んだ木製や鉄製のサッシが開発されるようになった。産業革命の時代以後は,大型の板ガラスが大量かつ安価に生産されるようになり,一般の住宅への需要も高まった。1851年のロンドン万国博覧会の会場として建築されたクリスタル・パレスは,大架構のガラス屋根を実現し新しい時代を象徴した。
木造の軸組構造で建てられる日本建築では,柱が荷重を支え壁に力学的負担はないので,開口を確保するための苦労はない。窓は間戸に通じ,柱と柱の間を覆うものであり,西洋の窓の語源のように壁にうがった穴とは異なる意味をもつ。住宅の原型ともいわれる寝殿造や書院造の建築では,柱間いっぱいの建具が使用されきわめて開放的につくられた。深いひさしと広い縁側は,直射日光の室内への利用をうまく調節しているし,紙障子は外光を拡散して柔らかい雰囲気をつくる優れたくふうであった。
→窓
主として,昼光をとり入れる開口の位置によって分類される(図1)。
外壁面に設けられた鉛直な側窓(がわまど)によって側面から採光するもっとも一般的な方法を側光,または側窓採光という。側窓の数や配置の観点から側光をさらに分ければ,片側採光,両側採光,二面採光,三面採光,四面採光となる。天窓その他と比較すれば,側窓の構造は単純であり,雨仕舞などに対する配慮,施工が容易である。使用に際しては,開閉操作,清掃保守の点で有利であり,開放感,眺め,通風,遮熱などの機能においても優れる。反面,隣接建物など周辺の状況によって採光が妨害される可能性は高い。また,とくに片側採光の場合,光の流れが一方的になり,窓側と室奥の間の明るさの極端な差異,居住者の顔面などにおける強い陰影,窓面の明暗によるまぶしさなど,好ましくない効果が生ずる恐れもある。
屋根または天井面に設けた天窓による採光を頂光,または天窓採光という。頂光の得失は,側光のそれとおおむね相反するが,開口の大きさに比して採光量は多く,上方より流入する光が室内の雰囲気形成に強力に作用する点は,その大きな特色である。
頂光と同じく上方からの採光を行うが,採光効果や雨仕舞の必要から高所に設けた鉛直な頂側窓を利用する方法を頂側光という。頂側光は頂光と同じような得失をもち,工場建築に採用されるのこぎり屋根はその代表的な例である。また,照明光の方向性についてきびしい要求がなされる美術館,博物館建築にもこの方式に関するくふうが多く見られる。
以上に属さない特殊なものとしては,開口部の形をくふうして地表面よりの反射光など下方よりの光をとり入れる底光がある。これは,日射の侵入防止,照明の劇的効果などを目的として計画される。そのほか,昼光の直接的導入がむずかしい地下室,大建築物の中心部への採光のため,反射鏡を組み合わせた日照鏡,鏡を内ばりした光ダクト,繊維状の素材を束ねた光ファイバーなどを利用する技術が開発されている。
昼光によって生ずる室内の明るさは,天空状態の変化に応じて変動するので,照度(単位lx)など明るさの絶対量を表す単位を採光の設計目標や評価指標に用いることができない。そこで,室内における採光量は天空光の利用率に相当する昼光率によって表現される。室内のある点の昼光率とは,図2に示すように,その点における水平面照度Eと,天井,壁などすべての遮へい要素を除き去ったと仮想した場合に全天空によって生ずるであろう水平面照度(全天空照度)ESとの比を百分率(%)で表したものである。昼光率を実際に測定するには,屋上など,室内照度の測定点からなるべく近く,天空全体が望める場所で,室内照度と同時刻に全天空照度を測定する必要がある。昼光率は種々の仮定に基づき計算によって予測することもでき,予測値によって採光量の理論的な検討がなされる。一般の採光設計では,所要の昼光率を定めて,それを実現するための窓の大きさなどの建築的要素を決める。
昼光率が定まった室内のある点においては,全天空照度がわかれば照度が予測できる。全天空照度は時間的に不規則に変動するが,その出現頻度はかなり安定しており,定式化できる。図3は,午前9時から午後5時までの8時間の時間帯である一定の全天空照度が確保できる時間的割合を百分率で示したものである。例えば,緯度35°付近の地方では,約95%の時間帯で5000lx前後の全天空照度が得られることが読みとれる。この場合,昼光率2%の点では,上記時間帯の95%では最低照度100lxが確保されることになる。このように,要求や目的に応じて異なるレベルの設計用全天空照度が採用できるが,人工照明設備を前提としない最低照度の確保を目的とする採光設計では,比較的暗い天空についての全天空照度5000lxを目安として用いる。
採光による室内の明るさの基準としては,一般の読書,事務作業などでは昼光率2%,裁縫,製図など細かい作業では昼光率3%,細かい作業を長時間継続する場合には昼光率5%程度が目安とされる。
室内における明暗の差は,雰囲気づくりには役だつが,作業環境にとっては不つごうな場合が多い。一般に,昼光率の分布を均整にすることはむずかしいが,教室などでは,極端なむらが生じないよう配慮が必要である。窓はまぶしさの原因となりやすい。カーテン,ブラインドなど窓面の輝度を抑えるくふう,窓面と周辺部の輝度対比を小さくするくふうが不可欠である。光の方向性に対する配慮も重要である。とくに,側窓採光の場合,水平方向からの強い光によって,人の顔や物の立体像に強い明暗が生じて醜くなる現象,手暗がりの現象,窓を背にして人物や物体がシルエットに見える現象など好ましくない状況が生ずる恐れがある。
昼光率の大小にもっとも直接的に影響する要素は窓の大きさである。そのため,建築基準法では,人が常時居住する部屋の採光に有効な窓の大きさの最低基準を規定している。居室に必要な窓面積のその床面積に対する割合(開口率)は,小・中・高等学校などの教室では1/5,住宅,病院の病室,診療所,寄宿舎の寝室などでは1/7,これらの建物のその他の居室では1/10とされる。
同じような形式の窓では,昼光率は開口率におおむね比例するが,形,位置,分布が異なれば,その影響を受ける。側窓の場合,窓は窓壁の中央にあって窓台の高さが作業面の高さに近いほど大きな平均昼光率を与える。また,縦長の窓や分割しない窓のほうが,横長の窓や分割した窓より明るさの量の点では有効であるが,明るさの分布の点では劣る。天窓は,比較的これらの影響を受けない。
片側採光の場合,正方形に近い平面形の部屋ほど大きな平均昼光率が得られる。ただし,間口と奥行きの比が1:2から2:1程度の範囲では,あまり大きな違いはない。
ガラスなど窓に用いられる透過材料の透過率と拡散性は,室内に導入される光の量と質的性状に影響する。一般に透過率と拡散性は相互するので,採光の目的に応じて各種材料の特性を十分把握して用いる必要がある。
反射率の高い明るい色彩の材料で仕上げられた部屋では,入射した光は室内表面でよく反射し拡散するので,採光の効率が高まると同時に明るさの分布も均整になる。
→照明
執筆者:宮田 紀元
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
昼光照明または自然照明ともいう。建物の窓から昼光を取り入れて室内を明るくし、物を見やすく、またよい雰囲気をつくるための建築的技術である。
[松浦邦男]
第一にその室の用途に応ずる明るさを保つことである。窓の大きさと配置とをよく考え、できるだけ室内が一様な明るさの分布となるようにする。窓から直射日光が入ると不快なまぶしさ(グレアglare)を感ずることがあるので、日よけなどでこれらを適当に遮蔽(しゃへい)できるようにする。また手暗がりや光幕(こうまく)反射(壁面に展示された油絵や机上の紙面などが光って見えにくくなる現象)が生じないよう窓配置に注意する。
[松浦邦男]
通常、昼光光源とよぶ。その源は太陽であるが、地表では太陽から大気を透過して直接的に入射する直射日光と、大気層で散乱される青空光および雲を拡散透過するかあるいは雲から反射される曇天光とがある。青空光と曇天光をあわせて天空光とよぶ。直射日光は天候により期待できないことがあるので、安定した昼光光源としては天空光のみを考える。ある面への入射光の明るさを示す量は照度であり、その単位はルクスである。大気層の外側での直射日光の法線面照度は約12万6800ルクスである。
[松浦邦男]
採光のための安定した光源として天空光を考えるが、これも直射日光ほどでなくとも絶えず変動するので、室内の照度もこれに従って変動する。そこで採光による必要な明るさの基準として何ルクスというように照度の値を決めてもあまり意味がない。この点が電灯などによる夜間の照明とは異なる点である。建物の内部で明るい部屋、暗い部屋というごく一般の通念がある。これは天候のよしあしに無関係で、窓の大きい部屋は明るく、小さい部屋は暗いという概念である。このような概念は室内の明るさと外の明るさとの比に対応していると考えられるので、室内照度Eとそのときの野外での障害物のない天空からの野外照度Es(全天空照度)との比をとって昼光率Dと名づけ、これを採光による明るさの指標とする。このとき両方の照度とも直射日光を取り除いて考えている(
)。室内の必要な明るさの基準としては、 のような値が基準昼光率として推奨されている。たとえば学校の教室は昼光率2%であり、これは明るい日600ルクス、平生300ルクス、暗い日100ルクスの照度があることを意味している。[松浦邦男]
建物を設計する際、ある部屋の昼光率を予測し、
に示した基準昼光率を満足しているか否かを検討するために採光計算(昼光照明計算)を行うことがある。採光計算の原理は人工照明における照明計算と同じである。窓面を発光面の大きい面光源と考え、それによる照度を求め、これを野外照度(全天空照度)で割って昼光率を得る。[松浦邦男]
室内の昼光率が大きいと昼光照度も大きくつねにきわめて明るいが、いくら明るくとも室内の明るさの分布や入射光の方向が適当でないと質の悪い採光といわれる。質のよい採光とはその部屋の用途によっても異なるが、たとえば事務室や教室では、(1)昼光率の分布が均一であること、(2)窓そのものによる不快なまぶしさがないこと、(3)窓に直射日光を制御(遮蔽または適当な導入)できる日よけなどがあること、(4)手暗がりや光幕反射が生じないような窓配置であること、(5)室内の表面仕上げ反射率が適当に大きく視野が明るいこと、などを満たしているものである。
[松浦邦男]
もっとも多いのが側窓(そくそう)採光(側光)であり、片側(かたがわ)採光と両側(りょうがわ)採光とがある。なかでも片側採光が多く、事務室や教室はほとんどこの方式である。その長所は、おもな光線が1方向からくるので光幕反射を生じないこと(
)、透明窓にすれば外への眺望が得られることなどであり、短所は、照度の分布が不均一で部屋の奥が照度不足となりやすく、また近隣の建物などによる障害を受けやすいことである。両側採光は照度不足となることはないが、おもな光線が2方向からくるので落ち着きがなく、シルエット現象(逆光となって顔など見分けがつかなくなる現象)が生じやすい。高窓採光は、側窓採光で窓の位置が高い場合と考えてよく、照度分布はよいが見通しがきかず、通風もよくない。工場、体育館、美術館で用いられる。天窓採光(頂光)は屋根または天井にある窓による採光で、長所は、照度分布が均一であること、隣接建物の障害を受けないことなどであるが、短所は、外界への見通しがないこと、直射日光によるまぶしさを生じやすいことなどである。もちろん平屋または最上階にしか使えず、大面積の工場や体育館に用いられる。頂側窓採光(頂側光)は天井付近の鉛直または鉛直に近い窓面から採光する方式で、工場によく使用される鋸(のこぎり)屋根採光、越(こし)屋根採光( )と、美術館に用いられるもの( )とがある。鋸屋根採光は窓面を北向きにするので、直射日光がほとんど入らないまぶしさの少ない安定した光環境をつくれる。越屋根(モニタールーフmonitor roof)採光は、工場の熱、水蒸気、廃ガスの排気のために考えられたものが原形であるが、現在は形だけが残り窓面は採光のためだけに使われている。美術館に用いられる頂側光では に示すように、絵画面での光幕反射を避け、また鑑賞者の場所を暗くして鑑賞者の姿が絵画面に映らないように窓面を設けねばならない。[松浦邦男]
最近の事務室のように必要な照度が500あるいは750ルクス程度になると、昼間は採光だけではこの照度は得られず、人工照明で補わなければならない。とくに窓から離れた部屋の奥の部分は昼間でも常時、人工照明を必要とする。一方、省エネルギーの観点から昼間はできるだけ昼光を利用したい。現在の採光設計の要点は、この両者間のつり合いをいかにとるかというところにある。昼光の量を計測して窓際の人工照明を自動的に点滅または調光する装置を設けることも実用化されている。
[松浦邦男]
建築基準法と同施行令では、居室(居住、執務などのために継続的に使用する室)に採光に有効な面積をもつ窓を設けることを定めている。その窓面積はその部屋の床面積に対する比率として定められ、幼稚園、小・中・高等学校の教室では5分の1以上、住宅の居室、病院病室などでは7分の1以上である。ただし、どんな窓でも採光に有効であるとはいえず、隣地境界線に近すぎる窓は有効でなくなるおそれがあるので注意を要する。
[松浦邦男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 リフォーム ホームプロリフォーム用語集について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…これに対し,台所から独立した食事室は雰囲気的には落ち着くが,日常的な使用には家事労働面での負担が大きくなる。DK形式をとる場合,食事をする部分にはゆとりある広さを与え採光などの部屋の居住性には十分注意し,台所部分には雑然としないよう十分な収納を用意すると同時に機能性のみならず意匠面での配慮が必要である。また食事の場を台所と別にもうける場合には,台所内に簡単な食事程度はとれる場所を用意するのが望ましい。…
※「採光」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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