西洋起源のことわざ

ことわざを知る辞典 「西洋起源のことわざ」の解説

西洋起源のことわざ

日本のことわざのなかには、西洋に由来するものが意外に多いことが、近年の研究で明らかになってきました。

■「ローマは一日にしてならず」や「人はパンのみにて生きるにあらず」のように、外国の地名外来語が含まれ、すぐ西洋起源とわかるものだけではありません。「を追う者は一兎をも得ず」のように漢文に由来するのではないかと思われるものや、「溺れる者はわらをもつかむ」のように、一見日本古来のものと感じられる表現のなかにも、たしかに西洋から日本に入ってきたものが散見されるのです。この事実は、国語辞典などでは、ほとんどふれられていません。

■もう少し具体例を挙げると、「かんなんなんじを玉にす」「一石二鳥」「鉄は熱いうちに打て」「火のない所に煙は立たない」「沈黙は金」「血は水よりも濃し」などなど。いずれも日頃から外国のものと意識せずに使っている表現ばかりで、なぜ、それほどまでに西洋のことわざが日本語に根づいているのか、不思議に思われるほどであるといってよいでしょう。

文明開化といわれた明治初期以来、日本人は西洋文明を必死に取り入れ、吸収しようとしてきました。その影響は、政治・経済から科学芸術にいたるあらゆる分野に及び、ことわざも例外ではありませんでした。英語やフランス語、ドイツ語などの、合計すると優に万を超えることわざが、さまざまな形で翻訳・紹介されてきたのです。

■翻訳されたものの大部分は残念ながらすぐ消えてしまいますが、一部は受け入れられ、流通するうちに時に改変されながら、しだいに日本語のことわざとして定着していきます。その期間はさまざまで、教科書に収録された「二兎を追う者~」は数年ですが、「溺れる者は~」のように、訳文がさだまらず、定着まで二五年ほどかかったものもあります。概して、抽象的な表現よりも具象的な比喩表現が定着しやすかったようです。

■定着したことわざは、絶対数はかぎられますが、使用頻度がかなり高く、日本語として驚くほど違和感がありません。その背後には、翻訳者の苦心ほかに、日本語のことわざとして受け入れ、口にして、洗練させていった無数の人々がいました。また、視点を変えると、ことわざには、もともと言語国境の壁を越えていくインターナショナルな底力があるともいえるでしょう。

出典 ことわざを知る辞典ことわざを知る辞典について 情報

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