言ふ甲斐無し(読み)イウカイナシ

デジタル大辞泉 「言ふ甲斐無し」の意味・読み・例文・類語

いうかい‐な・し〔いふかひ‐〕【言ふ×斐無し】

[形ク]
言ってもその効果がない。
「あやしがりいへど、使ひのなければ―・くて」〈・二七七〉
言ってみても取り返しがつかない。特に、死ぬことを遠回しにいう。
「さこそ強がり給へど、若き御心にて、―・くなりぬるを見給ふに、やるかたなくて」〈夕顔
言うだけの値打ちがない。言うに足りない。
「あかず口惜しと、―・き法師、童も、涙を落としあへり」〈若紫
見苦しい。ふがいない。→言い甲斐無し
「女、親なく頼りなくなるままに、もろともに―・くてあらむやはとて」〈伊勢・二三〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「言ふ甲斐無し」の意味・読み・例文・類語

いうかい‐な・しいふかひ‥【言甲斐無】

  1. 〘 形容詞ク活用 〙
  2. あれこれ言ってもしかたがない。
    1. (イ) 取り返しがつかない。話にならない。はりあいがない。言いがいない。
      1. [初出の実例]「ききしよりもましていふかひなくぞこぼれやぶれたる」(出典:土左日記(935頃)承平五年二月一六日)
      2. 「たふとうめでたかべいことも、雨だに降れば、いふかひなく口をしきに」(出典:枕草子(10C終)二九二)
    2. (ロ) ( 下に「こと、さま、人、なる」などを伴って、人の死を婉曲に表わす ) むなしい。
      1. [初出の実例]「かの君は、いふかひなくなり給ぬるものを」(出典:宇津保物語(970‐999頃)あて宮)
  3. とりあげて言うほどの価値のないさま、問題にするだけの値打のないさまを表わす。
    1. (イ) 子供っぽくて物事のわきまえがない。幼稚である。
      1. [初出の実例]「女(め)の童のいへる〈略〉いふかひなきもののいへるには、いと似つかはし」(出典:土左日記(935頃)承平五年一月一五日)
    2. (ロ) ものの風情や人の情を解さない。人柄、心ばえなどにみどころがない。風情がない。趣がない。
      1. [初出の実例]「田守(たもり)の物おひたる声、いふかひなく情なげにうちよばひたり」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
    3. (ハ) とるにたりない身分・存在である。言いがいない。
      1. [初出の実例]「かかることは、いふかひなき者のきはにやと思へど」(出典:枕草子(10C終)二八)
    4. (ニ) ふがいない。いくじがない。みじめである。言いがいない。
      1. [初出の実例]「女、親なくたよりなくなるままに、もろともにいふかひなくてあらんやはとて」(出典:伊勢物語(10C前)二三)

言ふ甲斐無しの語誌

( 1 )ともに連用形が程度副詞的に使われることもある。
( 2 )主に和文脈で用いられ、「今昔物語集」では用例大半が本朝世俗部に偏る。院政・鎌倉期には、「平家物語」には(ハ) の用例が多いなど、用法がやや固定化していき、近世には全般的にその使用が衰えた。

言ふ甲斐無しの派生語

いうかいな‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

言ふ甲斐無しの派生語

いうかいな‐さ
  1. 〘 名詞 〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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