日本大百科全書(ニッポニカ) 「豊明絵草紙」の意味・わかりやすい解説
豊明絵草紙
とよのあかりえそうし
鎌倉後期の絵巻。一巻。東京・前田育徳会蔵。「豊明絵巻」ともいう。出典、内容が不明のため、詞書(ことばがき)冒頭の「豊明のよなよなは……」によって題名がつけられ、通称されている。若くして中納言(ちゅうなごん)、左大将となり、楊貴妃(ようきひ)のような美人を妻に迎え、3人の子供をもうけて幸福な生活を送る主人公が、妻の病死に遭遇して世のはかなさを悟り、仏道に帰依(きえ)、自らも往生を遂げる話が描かれる。絵は墨を主とした白描(はくびょう)画で、当時流行した白描物語絵の典型的作例である。詞書の文体が後深草(ごふかくさ)院二条の日記『問はず語り』のそれに近似し、詞・絵とも彼女の作、あるいはその影響作と推定されている。
[村重 寧]