日本大百科全書(ニッポニカ) 「貨幣・信用恐慌」の意味・わかりやすい解説
貨幣・信用恐慌
かへいしんようきょうこう
Geld-Kreditkrise ドイツ語
商品流通が発展するにつれて、商品の譲渡をその価格の実現から時間的に分離させる諸関係が発展する。これがいわゆる商品の掛売りである。この場合、商品の販売者は債権者となり、購買者は債務者となる。そして購買者が販売者に対して一定期日に支払うという約束書として振り出すのが約束手形である。この約束手形は満期日まで裏書を重ねて転々と流通しうる。こうして取り結ばれる一連の債権債務関係が相殺によって決済される場合には、また諸支払いの場所的集中と突き合わせによって諸債権のある部分が相殺される場合には、貨幣は観念的な計算貨幣として機能するにすぎないが、現実の支払いが行われなければならない場合には、貨幣は支払い手段として登場しなければならない。もし商品の過剰生産による商品の販売不能か価格暴落が発生し、手形振出人が支払い期日までに手形を決済するに必要な貨幣を調達できなくなった場合、手形は不渡りとなり、一連の支払い連鎖と人為的決済体制が崩壊する。このとき貨幣は突然観念的な計算貨幣から現金に急変する。信用が崩壊して現金払いしか通用しなくなれば、支払い手段を求めての激しい殺到が生じ、貨幣飢饉(ききん)の状態が発生する。こうした事態が発生すれば、銀行は貸付資金が回収不能となるとともに、現金に対する需要が銀行に殺到することによって、銀行は支払い停止に追い込まれる。このような状態が貨幣・信用恐慌である。貨幣飢饉の状態に注目した場合、それは貨幣恐慌とよばれ、銀行の破産を含む信用の全面的崩壊に注目した場合、それは信用恐慌とよばれる。こうした貨幣・信用恐慌は、一般的過剰生産恐慌に規定されて、その特殊的段階として発生する場合と、このような一般的過剰生産恐慌の条件が存在しない場合にも、政治的原因や取引所投機などの影響を受けても発生する。後者は貨幣資本をその運動の中心とする。したがって銀行、取引所などを直接的範囲とする恐慌である。
[二瓶 敏]