翻訳|freight car
主として貨物の輸送に役だてる鉄道車両の総称。積載する貨物品種を限定しない一般用貨車と物資別輸送に適合した専用貨車がある。
[西尾源太郎]
(1)有蓋(ゆうがい)貨車 取り扱う専門者たちからヤネ車(しゃ)とよばれるように、箱形の車体をして、積載品がぬれては困るものに使用される。代表的な有蓋貨車としてはワムとかワキの記号の付してある一般用有蓋車がある。ワという記号は英語のワゴンwaggonからつけられた。側引き戸が設けてあり、貨物の出し入れと、錠および封印をして輸送中の盗難その他の事故を防止する構造になっている。このほか冷蔵車(レ)、通風車(ツ)、家畜車(カ)なども有蓋貨車に属する。有蓋貨車でも最近は専用貨車として使用される場合もあり、たとえばパレット積み専用(この場合は側面全部を引き戸構造としたものが用いられる)で、この種の専用貨車が多くなっている。
(2)無蓋貨車 一般に、ぬれてもかまわない粗い素材を輸送する貨車の総称であるが、ぬれや荷こぼれを防ぐためにシートを上掛けする場合もある。代表的な無蓋貨車としてはトラとかトキの記号のある貨車である。トという記号は英語のtruck(日本語化したトロッコ)からきたものである。以前は石炭、鉱石、機械、車両などの積載に広く使用されていたが、この種の貨物もそれぞれに適合する専用貨車によって輸送されることが多くなった。そのほかに平(ひら)貨車とよばれる囲いのない床面だけの構造の長物車(ながものしゃ)(記号チ)がある。チという記号は英語のtimber(木材)に由来し、主として大きな丸木材を輸送するのに使用された。現在は、鉄道用のレールで溶接して長尺物になったものをそのまま、何両も連結した長物車で輸送する。レールは横方向に柔軟性がある弾性を利用して曲線路通過も可能である。日本には少ないが、アメリカなどでは、高側壁貨車high side waggonとか嵩高(かさだか)品専用貨車bulk headded carなどが広い用途で使われている。
(3)ホッパー貨車hopper car 日本ではこの種の貨車は以前は無蓋貨車の範疇(はんちゅう)に入れていたが、物流技術の進歩に伴ってホッパー方式の貨車の普及が拡大して大類別の一つに加わった。構造としては漏斗(ろうと)状の車体で、上部が広く下部は傾斜壁面によって狭まり、品物を上部から積載して底部から取り出すのに便利である。記号としてはホキなどがつけられている。積載用品としては、石炭、ばら積み(包装しないで輸送すること)セメント、石灰石、飼料など、いわゆる粉粒体の輸送に供する。石炭用のものはとくに石炭車(記号セ)とよばれ、天蓋のない無蓋貨車の範疇に近いものである。一方、飼料を輸送するホッパー貨車はぬれを嫌うので上部も密閉する天蓋付きの構造になっている。屋根部に設けられた注入口の蓋(ふた)を開いて線路わきにあるサイロ設備から重力または圧送によって上部から粉粒体の積載を行う。アメリカなどでは小麦粉、穀類などもこの種のホッパー貨車で輸送されるのが原則であるが、日本では流通機構上ばら積み輸送がほとんど行われていない。ただし、ビール麦芽だけはホッパー貨車で輸送されている。
石炭車は、産炭地から港湾設備まで専用列車で大量一貫輸送(ピストン列車)することが多いので、港湾終端駅には、積載したままの石炭車を回転して急速に石炭を取り出し、高架線路下部に設けた貯炭場に石炭を落下させるカーダンパー設備を有することが多い。以前は北海道の小樽(おたる)築港、室蘭(むろらん)港、九州の若松港にカーダンパー設備を有していた。アメリカではさらに大がかりなホッパー貨車需要があるので、貨車の自動連結器を特殊構造として、頸部(けいぶ)を軸として回転できるロータリーカップラーを有し、貨車が連結した列車在姿のままで所定位置にくると貨車を回転する荷卸し設備もある。
(4)タンク貨車tank car 石油やカ性ソーダなどの液体状の貨物を輸送する貨車で、一般に車体が密閉筒状のタンクで構成されている。記号としてはタキなどとよばれている。その代表的なものはタンク車である。水を輸送する目的のタンク貨車は水槽車(記号ミ)である。タンク車はガソリンとか化学薬品など引火性の強い貨物を輸送するものがあるので、とくに脱線事故防止、衝撃防止、誘引火災防止など、車両設計や運転取扱いの面で細かい配慮が行われる。
[西尾源太郎]
最近の流通機構の変化に伴って、特殊な構造の物資別適合専用貨車が多く登場してきている。その代表的な例は自動車輸送用貨車(記号ク)である。以前は長物車で輸送していたが、これは乗用自動車あるいは小型トラックを2段積みにして列車の長さ方向に縦に積み走行、積み卸しするものである。積載された各自動車は緊定装置で固定される。自動車生産工場から各都市のディーラーに配送、あるいは輸出のために港まで大量輸送する目的で使用される。アメリカの鉄道では3段積みが普通で、また輸送中に自動車が破損事故を生じないように有蓋貨車(妻(つま)部は貫通式)のスタイルになっているのが最近の特徴である。
コンテナ輸送の発達に伴って、平貨車をコンテナ積載専用に進歩改良させたコンテナ貨車が独立して類別される傾向になっている。日本では鉄道用としては5トンコンテナが標準化されて、5個積載のコンテナ車(記号コ)が主として使用されている。アメリカでは海運用のマリンコンテナ(長さ40フィート=12.2メートル、あるいは20フィート=6.1メートル)を陸上では鉄道あるいは貨物自動車で運ぶのが通例であり、この種の大型コンテナを2個あるいは1個積載するコンテナ車が需要の増大とともに技術的にも進歩改良を続けている。道路用のバントレーラー(これも40フィートの長さまである)をそのまま平貨車に積載するピギーバックpiggy backが、アメリカの鉄道貨物輸送の本流となった。ヨーロッパ諸国の鉄道では、バントレーラーの車輪脚部を平貨車の床に袋部分を設けて落とし込む設計のカンガルー方式貨車が普及している。
日本の鉄道では、機関車でも旅客車でもないその他の事業用車両を貨車の範疇に入れている。たとえば車掌車(記号ヨ)がある。構造上からは有蓋貨車に属しているが、用途上からは事業用車両である。そのほか、事業用の貨車としては雪かき車(ラッセル車とかロータリー車など)、クレーンを装備した操重車(記号ソ)がある。操重車は従来、脱線事故復旧作業用が主であったが、最近では架橋や線路敷設などの建設工事用にも使われる。
日本やヨーロッパ諸国の貨車は従来10トンないし20トンの積載荷重のものが主で、2軸貨車が多かった。しかし1970年代以降は30トン(ヨーロッパでは50トン)程度の大単位になってきたことと、貨物列車速度向上と走行安定性向上のために2軸ボギー貨車が多くなった。大陸国でありかつ大量の資源輸送を行っているアメリカ、ロシア、オーストラリア、中国、南アフリカ共和国などの鉄道の貨車は大型であり、1両の積載荷重が100トンに及ぶものがある。また貨物列車そのものも、ワンマイルトレーンとよばれるような長大編成が運転されている。
なお、旅客列車に連結される手小荷物や郵便を輸送する車両は、たとえ貨車に似た構造であっても、旅客車の範疇に入れて、貨車とはよばない。
[西尾源太郎]
『日本国有鉄道運転局車務課監修『客貨車関係法規便覧』(1983・交友社)』▽『久保田博著『鉄道車両ハンドブック』(1997・グランプリ出版)』
貨物輸送を主目的とする鉄道車両。もっぱら機関車によって牽引され,自走はできない。貨物の種類や性質にあわせて,種々の構造や大きさのものがある。構造上からは,屋根のある有蓋貨車,屋根のない無蓋貨車,液体や粉体を積むため密閉構造となっているタンク貨車,荷卸しのためのホッパー(じょうご形の容器)をもつホッパー貨車および貨物の積載設備はないが車掌車や操重車などのようにその外観から貨車として扱われる事業用貨車の5種類に大別される。日本の貨車は1軸当りの重量負担力(軸重)が最大15tであり,車体断面の大きさ(車両限界)も比較的小さい。積載重量15t程度の小型貨車は2本の車軸をばねを介して車体に取り付けた2軸貨車が使用され,積載重量30t程度の大型貨車では台車の上に車体をのせた2軸ボギー貨車が一般的である。さらに積載重量が大きい場合は3軸ボギーやこれらの組合せが利用され,最大積載重量280t,28軸の大物車までが使用されている。海外では貨物輸送が鉄道に依存しているところも多く,これらの国では旅客列車よりも貨物列車のほうが主体となっている。軸重制限も20t以上がふつうであり,さらに車両限界も大型となっているため,標準軌間で2軸貨車28t,ボギー貨車50t程度の積載重量が一般となっている。また断面も大きくとれるために,大型トラックをのせて走行するピギーバック輸送用貨車もよく利用されている。
日本の鉄道創業時に用いられた貨車は,すべてイギリスから輸入された木製2軸車であったが,順次国産化され,かつ鋼製化,大型化された。現在ではボギー貨車の比率が高くなりつつあり,それぞれの荷姿に適したものが開発され多種類のものが使用されている。特定の貨物に使用される物資別適合貨車も多く,物流の改善に果たしている役割も大きい。貨車は旅客車のように乗客を輸送する目的はないので乗りごこちは期待されず,大容量の貨物を損ねることなく安価に輸送することに重点がおかれている。このために積車時と空車時の重量差が大きく,これを支えるばねは堅いものが使用され,走行安定性の面からは不利な要素となっており,脱線対策についてつねに考慮をはらわなければならない。また最高速度は,旅客車が100km/h前後であるのに対して,貨車の場合75km/hのものが大部分である。しかし生鮮食料品やコンテナーを輸送するための100km/hの高速貨車も開発されている。荷主,またはリース会社が所有し,JRが運用するものを私有貨車というが,私有貨車は特定の貨物を輸送するための専用貨車で,その9割はタンク貨車である。貨車は常備駅を指定している一部のものを除き,ほとんどが全国運用の形態をとっており,これらについては車両の検査・修理についても特定の場所を指定していない。
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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