日本大百科全書(ニッポニカ) 「鉄道貨物」の意味・わかりやすい解説
鉄道貨物
てつどうかもつ
鉄道によって輸送される貨物をいう。鉄道貨物輸送は、モータリゼーションの影響を受けて停滞ないし衰退しているのが世界的な傾向である。鉄道による貨物輸送は、中長距離輸送や専用側線から専用側線への直通輸送の領域で、他の輸送機関によるよりも有利なものであった。しかし、鉄道貨物の専用側線をもたない農場、工場、倉庫、スーパーマーケットなどへは、貨物の集配を道路輸送(トラック)に頼らなければならないため、トラックから鉄道へ、鉄道からトラックへの貨物の積み替えや積み下ろしのための荷役作業を必要とし、利用者への配送の遅れや経費の負担増となる。また、鉄道の貨物輸送は、発駅から着駅までの途中の操車場(ヤード)で行先別に貨車の編成替えをするなどの作業を必要とする。
日本の国鉄(現JR)の貨物輸送は、このヤード系輸送方式を1984年(昭和59)に廃止し、発駅から着駅まで操車場を経由しないで輸送する直行系輸送方式に全面的に転換した。直行系輸送方式には、物資別専用輸送とフレートライナー(高速直行列車)の2形態がある。物資別専用輸送は取扱駅相互間を直行列車で結んだ輸送方式であり、フレートライナーはコンテナだけの直行輸送方式である。鉄道貨物はコンテナ貨物と車扱貨物に二大別される。コンテナ貨物は鉄道の特性を発揮しうる分野として期待されている。車扱貨物は石油、セメント、石灰石、石炭などに専用貨物列車を導入し、効率化を図っている。
1987年4月、日本では国鉄の分割・民営化による鉄道改革が実施され、国鉄は六つの旅客鉄道会社と一つの貨物鉄道会社とに分割された。JR新会社は、北海道旅客鉄道(JR北海道)、東日本旅客鉄道(JR東日本)、東海旅客鉄道(JR東海)、西日本旅客鉄道(JR西日本)、四国旅客鉄道(JR四国)、九州旅客鉄道(JR九州)、日本貨物鉄道(JR貨物)として出発した。国鉄貨物輸送はJR貨物に引き継がれた。
JR貨物におけるベースカーゴ(主力となる積荷)は、長距離コンテナと大量・定型の物資別貨物となっている。素材輸送から消費財輸送への転換期を迎えている今日、鉄道貨物輸送は、地球環境問題への対応、高齢化社会における労働力不足問題などとのかかわりをもちつつ、これからも物流面で果たすべき役割が期待されている。
JR貨物は「京都議定書の目標達成計画」、「低炭素社会づくり行動計画」の達成に向けて、貨物輸送の方法をトラックから鉄道に転換させるモーダルシフトの担い手として、二酸化炭素排出量の削減に貢献している。
しかしながら、2010年度からの高速道路料金の引き下げや無料化社会実験は、モーダルシフト政策を根底から覆す可能性があり、その実施には十分な検討が必要とされる。2011年(平成23)4月時点で、JR貨物の営業キロは8337.5キロである。また、2010年度の輸送実績は3098万トン、202億トンキロであった。
[雨宮義直・堀 雅通]
『中西健一・平井都士夫編『新版 交通概論』(1982・有斐閣)』▽『村尾質著『貨物輸送の自動車化』(1982・白桃書房)』▽『中島啓雄著『現代の鉄道貨物輸送 改訂版』(1997・交通研究協会)』▽『日本交通学会編『交通経済ハンドブック』(2011・白桃書房)』▽『『運輸と経済』月刊(運輸調査局)』▽『国土交通省鉄道局監修『数字でみる鉄道』各年版(運輸政策研究機構)』