費用・便益分析(読み)ひようべんえきぶんせき(英語表記)cost-benefit analysis

日本大百科全書(ニッポニカ) 「費用・便益分析」の意味・わかりやすい解説

費用・便益分析
ひようべんえきぶんせき
cost-benefit analysis

直感では把握しかねるような広範で複雑な効果を及ぼす大規模なプロジェクトについて、その実施をすべきか否かの判断や、代案間の比較評価のための分析手法であり、そのプロジェクトのもたらすさまざまの便益およびそれから生ずる各種の費用について測定し、便益の大きさと費用の大きさとを比較することにより、特定プロジェクトの評価またはその各種代案間の比較評価を行うことを目的とする。コスト・ベネフィット分析ともいう。なお、狭義の費用・便益分析というのは、プロジェクトの便益や費用が金額に換算できる場合に用いられる分析をさし、金額表示はできないが数量的に表示しうる場合に用いられる費用・有効度分析cost-effectiveness analysisと区別されることもある。

 費用・便益分析は、まずアメリカにおいて河川港湾の投資計画の評価に用いられた。1902年の「河川港湾法」においては、商業的ベースにおける費用と便益を考慮してその望ましさを報告することを義務づけており、経済的評価が可能な分野に対しては費用と便益を含む分析が行われた。30年代になると、各プロジェクトの評価範囲が拡大されるとともに、プロジェクトの社会に与える便益が費用を上回ることが、そのプロジェクトの実施を正当化するという考え方が支配的になってきた。50年代には、水資源開発プロジェクトに関する便益と費用の分析方法などの指針となる一般原則や評価方法を設定する「グリーン・ブック」なども提出された。また、費用・便益分析はPPBSにおいて代案の開発およびそれらの間の比較評価の道具として、きわめて重要な位置を占めるようになった。

 一般の私企業が生産し市場で取引される財やサービスの場合には便益の評価は比較的容易であるが、公共プロジェクトの便益は無料で提供されることが多いから、なんらかの形で推計しなければならない。便益の計測便宜のために、主要便益と副次便益、直接便益と間接便益などに分類されることがある。主要便益というのは、プロジェクト実施の本来の目的に関する便益である。副次便益というのは、本来の目的ではないが、たとえば美観の改善のような付随的な便益である。費用・便益分析の対象となるプロジェクトは主として公共プロジェクトであるから、実施主体に属する便益のみならず、社会全体に生ずるすべての便益を測定すべきである。直接便益はプロジェクトのアウトプットとして直接もたらされる便益であり、灌漑(かんがい)プロジェクトによりもたらされる農産物増産、高速道路プロジェクトによる走行時間の短縮や自動車のガソリン代とか修理代の節約分は直接便益の例である。間接便益の評価はもっとむずかしいが、農産物の増産が肥料や農機具の生産を高めるならば、これも間接便益といえるであろう。

 費用についてもいろいろな分類が行われている。一つの例はプロジェクト費用、付帯費用、外部費用への分類である。プロジェクト費用とは、プロジェクト実施のための直接費用であり、研究開発費、建設費、維持運営費などである。付帯費用とは、プロジェクトのアウトプットを利用するために受益者が負担しなければならない費用であり、灌漑用水を利用して農産物の増産を実現するために受益者の側で負担する農機具代や肥料代の増加分である。また、公共プロジェクトの場合には、いわゆる外部費用とよばれる部分も明確に費用の一部として考慮すべきである。

 費用・便益分析の対象となるプロジェクトは通常長期にわたる耐用年数を有するが、異なる時点に便益や費用が生ずるプロジェクトの代案を比較評価するには現在価値に変換するのが一般的である。便益の流れの現在価値PVBは、割引率をrとし、耐用年数をnとし、各期に生ずる便益をBtとすると、次のように表される。


 同様に、費用についても現在価値をPVC、各期に生ずる費用をCtとすると、

 いくつかの代案を比較評価し、もっとも好ましい代案を選択するための基準は、次のいずれかの値が最大であるということである。


 また、ある特定プロジェクトの実施が正当化されるためには、(1)の値が1以上、(2)の値が0以上でなければならない。

[林 正寿]

『A・K・ダスグプタ、D・W・ピアース著、尾上久雄・阪本靖郎訳『コスト‐ベネフィット分析』(1975・中央経済社)』

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