翻訳|public goods
経済学において公共財は,財あるいはサービスに備わった特性によって定義される。第1の定義は,財の〈消費における非競合性〉に注目する。たとえば,灯台の光,ラジオ放送,花火,カの駆除等は,それらがもたらす便益をある個人が享受しても,他人が同時にその便益を享受するのを妨げない。このように,同時に同量の消費が複数の人によって可能な財・サービスを公共財という。これは,パン,理髪のように,ある個人による財の消費なりサービスの享受がその分だけ,他人に残された消費量なりサービス享受の機会を減らす,いわゆる〈私的財private goods〉に対する概念である。消費が競合することが皆無の財を〈純粋公共財〉と呼び,国防,外交等,その成果が全国民に一様に及ぶ財・サービスがあげられる。部分的に競合的な財は〈準公共財〉と呼ばれ,同時使用者数が増加すると混雑をきたし,各消費者の実質的消費量が減る,道路,港湾設備,図書館等の〈混雑性公共財〉と,その便益の及ぶ地域的範囲の限界から消費が競合する,警察・消防署の防犯・防火サービス,公園・学校等〈地方公共財〉と呼ばれるものが含まれる。
第2の定義は,その財・サービスの対価を消費者から得る彼らの便益に応じて徴収することの困難さに注目する。すなわち,〈排除原則〉の適用の困難な財・サービスを公共財と呼ぶ。たとえばパンや理髪サービスの場合は,対価を支払わない人に対しては財の引渡しを拒むことで,いいかえれば非支払者を財から得られる便益享受者から排除する,すなわち排除原則の適用で対価を得ることは容易である。しかし,たとえば道路については,ゲート等を設けて使用料非支払者を排除することは,高速道路ではある程度の費用で可能であるが,市街路では不可能に近いほど高い費用を要することとなる。もし排除原則によらず,消費者の自発的支払に期待すれば,個々の消費者は自己の受ける便益に応じて支払をする誘因がなく,〈フリー・ライダー〉として行動しようとするので,対価の十分な徴収は困難である。したがって営利を目的とする私企業が,排除原則の適用が困難な財を自発的に市場に供給する可能性は少ない。〈非競合性〉と〈非排除性〉は別々の概念であるので,たとえば非混雑時の有料橋のように排除性のある非競合財もあり,また混雑時の一般道路のように競合性があっても排除原則の適用の困難な財もある。
一般に,いずれか一方の特性をもてば公共財と呼ばれる。非排除性財は前述の理由で,また排除性のある非競合財の場合は供給者が価格を平均費用以上に保つため,私企業によるそれらの財の供給は,需要がありながらも皆無かあるいは過少となる。したがって共同使用する集団の政府が直接生産供給するか,補助金を私企業に与えて供給させねばならない。いずれにしても,そのためには,財と引替えに任意に支払われる対価のほかに,その集団の政治的決定に基づき,集団構成員より強制的に徴収される資金(税金)が必要である。その際,国防,外交のように全国にわたる便益を生む純公共財以外は,必ずしも中央政府によらず,便益の及ぶ範囲に応じて,県,市あるいは共同消費のための団体等が,自分の集団の成員のみにコストを賦課して,できるだけの便益と費用負担の対応を図ることが,公共財の適正規模を政治的に見いだすうえに重要である。この配慮がなされないと,コストが便益享受者以外に負担されるため,公共支出が不必要に大きくなるおそれがある。したがって,タバコの例でわかるように,政府の供給するすべての財が公共財であるわけではない。
執筆者:柴田 弘文
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消費において非競合性を有する財のことであり、この性格のゆえに排除原則を適用することが技術的に不可能であるか、技術的には可能であっても不必要に過大な人件費や物件費を要するために排除原則を適用することが経済的に望ましくない場合が多い。この場合には、消費者は負担を負わなくても公共財の消費の便益の享受から排除されないから、フリー・ライダー(ただ乗り)として行動することが合理的になる。すなわち、社会全体にとっては必要度は高くとも、その供給に必要な費用を徴収するメカニズムが市場には存在しないから、市場においては供給されず、いわゆる市場の失敗を引き起こすことになる。
民間部門における市場を通した供給と、公共部門における非市場メカニズムを通した供給とが共存する混合経済体制においては、基本的には市場に依存しながらも、その失敗した場合にのみ公共部門により供給するという形をとるから、この種の性質をもつ財は公共部門により供給されることになる。しかし、公共財の定義は、供給主体が公共部門であるという規準に基づいてではなく、財に内在的な消費における非競合性という性格に基づいてなされている点に注意する必要がある。
[林 正寿]
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(依田高典 京都大学大学院経済学研究科教授 / 2007年)
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[価格制度の限界]
価格制度の働きの説明を終わるにあたって,この制度の限界に簡単にふれておく。とくに重要なのは公共財と独占である。公共財は,ある経済主体によるその消費が,他の経済主体によるその同時的消費を排除しない財とサービスと定義され,国防,公園等が代表的な例である。…
…また,公私混合企業についても地方自治体が一部出資した株式会社,有限会社,などがあり,これらも公企業の範疇に属するものと考えられる。
[存在理由]
公企業によって,財・サービスの供給が行われる理由としては,第1に社会的に必要であるが民間に任せていたのではまったく供給されないか,あるいは十分に供給されない財・サービス,すなわち公共財の供給を公共部門が行うということがあげられる。道路公団が行う高速道路網の整備のような,大規模な先行投資を必要とする社会資本の形成を,民間企業で行うことには限界がある。…
…第1は政府や地方自治体の一般的活動で,外交,防衛,治安や秩序の維持,消防,民間活動の監督や規制,治山治水などである。これらのサービスは〈公共財〉と呼ばれ,料金を課したり,あるいは他の手段によって消費者がそれらのサービスを享受することを拒否することが困難であるという技術的特性(消費における非排除性)や,ある人がサービスを享受しても,それによって他の人が享受できなくなるということがないという特性(消費の非競合性)などを備えている。そのため,私的には供給されえず,日本のような市場経済においても公共部門によって供給されている。…
…大気とか日光とかの自然財が自由財の例としてよく挙げられるが,現代においては経済活動の水準の高まりで,これらの自然財もまた希少なものとなり,自由財ではなくなりつつある。 財の分類としてさらに,私的財と公共財とに分けられることもある。私的財は,個々の経済主体に分属され,その所有権が明確にされるような財である。…
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[財政と国民経済]
財政が国民経済の中に重要な地位を占めるに至ると,財政には民間経済では成しえない経済機能があることがしだいに見いだされた。第1に公共財の考え方である。すべての人に同時に同量のサービスを提供することができ独占が許されないのが公共財であるが,政府の行政機能や軍備等,いわば〈安上がりの政府〉に含まれるものがほとんど公共財に含まれる。…
…このような問題に対する一つの基準となるのが,所有対象の観点である。 所有対象(財)の観点からすれば,私的財と公共財が区別されなければならない。使用に際し競合が存在する財が私的財,競合が存在しないか,あるいは競合しても他者を排除困難な財を公共財という。…
…消費者ひとりひとりに個別的な利益を与える財貨やサービス,すなわち,私的財と呼ばれるものは,市場に参加する供給者と需要者との間の売買を通じて提供される。これに対し,消費者一般に差別なく利益を与える財貨やサービス,いわゆる公共財は,市場を通じて提供することが不可能ないしは非常に困難であるため,国と地方公共団体,すなわち国民経済の公共部門組織によって提供される。そのなかで全国的便益性をもつ公共財の提供は国によって行われ,地方的便益性の公共財の提供に対しては地方公共団体が責任を負う。…
…したがって消費者は,財の便益がコストより大きい限り必ず対価を支払う結果となる。しかし〈公共財〉,たとえばラジオ放送,国防,市街路等の場合,対価の非支払者をその財の便益享受から排除すること(排除原則の適用)は非常に高価につくか,不可能に近い。そこで対価と交換でなく財を供給して,別途,消費者に,受ける便益に相当する自発的な支払を期待したとする。…
※「公共財」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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