欧米には〈良い〉という意味のラテン語ボヌスを語源とするボーナスbonusがある。これは会社の特別配当を意味する。通常,賃金についていわれるときは,特別に支払われる配当を意味し,一般に一定水準以上の生産能率をあげた場合に支給される。一方,日本には盆暮,期末などに毎月の賃金とは別に一時金が支給される賃金慣行があり,これを賞与,ボーナス,一時金,夏季手当,年末手当,期末手当などと呼んでいるが,その性格は欧米のボーナスとは著しく異なる。沿革的には,封建時代に商人社会や職人社会で盆暮に支給されていた〈お仕着(しきせ)〉の慣習が起源といわれるが,直接の始まりは1876年の三菱商事の賞与制度で,以後大企業を中心に普及したとされる。第2次大戦前の賞与は原則として職員を支給対象とするもので,その額はときに毎月の賃金の1年分にものぼったが,職員はこれを期末における利潤分配として,しかも使用者の考課による一方的恣意(しい)のもとに功労報奨〈賞与〉として支払われていた。ところが敗戦後,急速に組織された労働組合がインフレによる生活困難を充足する追加的賃金としてこれを要求・獲得したことから,賞与はその性格をかえ,さらにその後の労働組合の一時金闘争を通して,今日では利潤分配的,功労報奨的な性格が薄れて生活保障的な性格が強くなり,名称も〈一時金〉と呼ばれることが多くなるとともに,決定方法も使用者の一方的,恣意的なものから原則として労使の団体交渉によるものとなり,個人的配分においても考課査定分のウェイトが20%程度に縮小し,また,支給対象も工員層や中小企業労働者にまで拡大したのである。そこで労働省調査によって支給率と支給事業所の割合をみると,産業間・規模間格差はあるが,全産業計では1980年時点でそれぞれ夏季の場合1.56ヵ月,96.1%,年末の場合1.85ヵ月,98.5%となっている。13ヵ月目の賃金と呼ばれる年間1ヵ月分の賃金程度のヨーロッパ諸国のボーナスや,年間賃金の5%以下のアメリカのクリスマス・ボーナスと比較すると,日本の一時金支給率は例外的に高いが,このことは,日本の生活における盆暮の特別な支出を含め,今日の労働者生活を支えるうえで毎月の賃金のみでは低賃金で不十分ということに起因するといってよい。なお,1960年代に年1回の交渉で年間の一時金を決める〈年間臨給協定〉方式が普及したが,73年の石油危機による狂乱インフレの影響で実施率が急減した。しかし,低成長下の穏やかなインフレのなかで近年再び復活してきている。
執筆者:上井 喜彦
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