小説家。山口県下関市生まれ。本名長谷川敬(たかし)。高校時代より溝口健二に傾倒、映画監督を志して、1952年(昭和27)日本大学芸術学部演劇科に入学するが1955年に中退。在学中は詩誌『詩世紀』に詩を発表していた。その後、NHKが募集したラジオ・ドラマの脚本が入選、放送脚本作家の道に入り、以後ラジオ、テレビのドラマ、録音構成、ドキュメンタリーなどを手がける。1968年、明治百年記念演劇脚本募集に応募した新作歌舞伎「大内殿闇路」が最終候補に残り好評を博す。この作品がのちに『金環食の影飾り』(1975)の土台となった。
1970年「ニジンスキーの手」で『小説現代』新人賞を受賞し作家デビュー。1974年『オイディプスの刃(やいば)』で第1回角川小説賞を受賞。『海峡』(1983)、『八雲が殺した』(1984)の2作で泉鏡花賞を受賞する。
甘美な毒をもった耽美ロマン、夢幻のエロティシズムと官能美を湛えた愛憎劇、魔性と狂気に魅入られた倒錯の坩堝(るつぼ)、幻想と伝奇の極致、絢爛(けんらん)豪華な極彩色の舞台……等々、これまで赤江を賛美、評価してきた言葉は、いずれもどこか妖しげで華麗な響きに満ちている。彼の魅力はまさにこの「赤江美学」としかいいようのない、彼にしか描けないであろう独特の作品世界にある。その一部での熱狂的な人気は、デビュー後わずか4~5年の間に発表した中・短編によって決定的なものとなった。
たとえば、300年以上も前の血天井に見つかった、ほんのひと月以内についたと思われる新しい血痕の謎を発端とする「獣林寺妖変」、釧路と九州の一部にしか飛来しないタンチョウが、中国地方のどこかに飛来して人を傷つけたという「禽獣の門」、山陰の海で日本近海にいるはずのない人食い鮫に襲われる「ポセイドン変幻」、死者儀礼の一種で、葬儀の際、死者の身体を餅でていねいに拭き清め、その餅を呑み込んで死者の生前の罪を一身に引き受ける一族を描く「罪喰い」など、まず物語を動かす大きな謎があり、加えてホモセクシュアルな匂いを漂わせる官能性、地方色豊かで、いつの間にか引き込まれてしまう流麗な文体、さらには歌舞伎や能、バレエ、建築、造園、刺青……と幅広い分野の知識が作品の随所にちりばめられている。そのほか、亡霊との妖しい交感を描いた幽玄な作品も多い。長編作品には『蝶の骨』『上空の城』(いずれも1977)、『妖精たちの回廊』(1981)、『星踊る綺羅(きら)の鳴く川』(2000)などがあるが、やはり真骨頂は短編にある。
そうした赤江の魅力の再評価の気運が高まり、2001年(平成13)には幻想ミステリー傑作選『虚空のランチ』が刊行された。
[関口苑生]
『『星踊る綺羅の鳴く川』(2000・講談社)』▽『『金環食の影飾り』『海峡――この水の無明の真秀ろば』『上空の城』(角川文庫)』▽『『オイディプスの刃』『ニジンスキーの手』(ハルキ文庫)』▽『『八雲が殺した』(文春文庫)』▽『『獣林寺妖変』(講談社文庫)』▽『『ポセイドン変幻』(集英社文庫)』▽『『蝶の骨』(徳間文庫)』▽『『妖精たちの回廊』(中公文庫)』▽『『虚空のランチ』(講談社ノベルス)』
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