タンチョウ
日本や中国、ロシアなどに生息する大型のツル。羽を広げると約240センチに及ぶ日本最大級の鳥。国内では主に北海道に生息する。明治期の乱獲や湿原の開発などで絶滅したと考えられたが、1920年代に釧路湿原で再発見され、52年に国の特別天然記念物に指定された。84年から釧路市と鶴居村で給餌が行われるなど保護活動で個体数は回復。2021年度は釧路湿原を中心に約1800羽が確認された。真っ赤な頭部と白と黒の美しい羽が特徴で旧千円札の裏面に描かれた。
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タンチョウ (丹頂)
Japanese crane
Grus japonensis
ツル目ツル科の鳥。タンチョウは,アメリカシロヅルとともにもっとも優美な鳥の一つに数えられ,また日本では,長寿やめでたいもののシンボルとして,昔からたくさんの人々に敬愛されている。全長約140cm。全身ほとんど白色で,のど,くび側,次列・三列風切は黒く,額,眼先,頭頂は皮膚が裸出し,頭頂部は赤い(額と眼先の裸出部は黒い)。丹頂の名は,頭頂が赤いことからつけられた。黒色の三列風切は長く,尾羽の上を覆っているので,よく尾が黒いとまちがわれるが,この羽毛の下に真っ白な尾が隠れている。くちばしは比較的長く,緑褐色。脚は黒い。1年目の幼鳥は胸腹部は白いが,頭頂,くび,背は黄褐色で,成鳥と違って頭部の裸出部には羽毛が生えている。中国東北部,ウスリー地方,日本の北海道で繁殖する。大陸のタンチョウは渡り鳥といわれ,朝鮮半島中部や中国東部で越冬するらしいが,北海道のものは留鳥である。大陸のタンチョウはまだ十分に調査されていないが,その数はおそらく1000羽以下と推定され,北海道のものは釧路湿原を中心に分布し,一時は30~40羽にまで減ったが,約600羽近くまで回復した。(1996年末現在)。しかし,江戸時代の末期には,北海道の全土で繁殖していて,関東地方で越冬していた記録が残っている。
タンチョウは,1年を通じて広い湿地や川岸にすみ,繁殖しているつがい以外はふつう小群をつくっている。餌は,湿地や浅い水の中で水草や水生昆虫類,小魚,タニシやカニなどをあさり,畑に出てトウモロコシなどの穀物を食べている。飛翔(ひしよう)力は強く,くびと脚をまっすぐのばし,ゆっくり羽ばたいて飛ぶ。渡りのときのように長距離を飛ぶときは,逆V字形の編隊をつくる。ツル類は,〈ツルのダンス(鶴の舞い)〉や〈鳴き合い〉をはじめ,さまざまなツル類独特のディスプレーを行うが,タンチョウもその例外ではない。タンチョウのダンスは,春先にいちばんよく見られるが,しかし春先だけとは限らない。四季を通じて,成鳥も幼鳥も,また1羽でも,つがいでも,群れでも,ダンスを踊る。このダンスは,翼を広げてピョン,ピョン跳び上がったり,足早に追いかけっこしたり,頭を下げておじぎをしたり,くちばしを空のほうに突き上げたり,草や小枝を拾って空中にほうり上げたりといった動作からなり,幼鳥や1羽の鳥でも行うことから,性的なディスプレーであるよりも,おそらく遊戯の一種と考えられている。鳴き合いは,くちばしを天に突き上げて,夫婦が鳴き交わすディスプレーで,まず雄が一声クヮーと鳴き,すぐ雌がカッカッと続け,それを繰り返す。これは主としてなわばりの宣言である。
巣は湿地の地上にヨシをたくさん集めてつくり,外側の直径1~2m,高さ10~50cmの大きさがある。卵は淡黄褐色に薄い斑点があるが,白いものもあり,1腹1~2個。しかし,2卵の場合でも,雛として育つのはふつう一つの巣から1羽だけである。産卵は4月初めころ,抱卵期間は32~35日。雌雄とも抱卵,育雛(いくすう)し,生まれた雛は翌年の春まで両親と一つの家族群をつくっている。
〈ツルは千年,カメは万年〉のことばのように,タンチョウは長寿の生物の代表とされている。しかし,実際の寿命ははっきりしていない。飼育したものの記録から推察すると,いったん成鳥に達した鳥は,40~70年生きると思われる。1000年にはとうてい及ばないが,鳥類の中では長命のほうである。ただし,ほとんどの動物がそうであるように,野生のものは幼鳥の死亡率が高い。瑞鳥(ずいちよう)として,また姿がよいので,日本画に描かれることも非常に多く,おそらく鳥類の中では画題として1位であろう。なお,タンチョウも他のツル類ももっぱら地上で生活し,ほとんどの種は決して木に止まらない。〈松上のツル〉,あるいは〈ツルの巣ごもり〉というのは,コウノトリやアオサギをツルと見まちがえたのである。タンチョウは1935年に国の天然記念物に,52年に特別天然記念物に指定。
執筆者:森岡 弘之
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タンチョウ
たんちょう / 丹頂
Japanese crane
[学] Grus japonensis
鳥綱ツル目ツル科の鳥。日本の鳥のなかでも姿がもっとも優美であり、また「鶴(つる)は千年」の言い伝えから、古来長寿やめでたいことのシンボルにされている。全長約1.4メートル。体は白色で、眼先(めさき)、のどから頸側(けいそく)にかけて黒く、頭頂に赤色裸出部がある。次列・三列風切(かざきり)は黒く、飾り羽状に長く伸びて、尾の上を覆う。このため、一見尾が黒いようであるが、尾羽は白い。シベリア南東部、中国東北部、北海道の釧路(くしろ)・根室地方で繁殖する。大陸のものは冬期に朝鮮半島、中国東部に渡るが、北海道では留鳥として周年生息し、2009年1月の調査では1065羽が確認された。しかし、明治維新以前には、繁殖しているもののほかに、各地に冬鳥として渡来するものが多かったといわれている。
広い湿地にすみ、種子、芽、若根、穀物、水生の小動物などを食べている。湿地の中にアシや枯れ茎を積み上げて、直径1メートル以上、高さ70~80センチメートルに及ぶ大きな巣をつくり、1腹2個の卵を産む。抱卵は雌雄交代で行い、抱卵期間は約33日。雛(ひな)は黄褐色の綿毛に覆われ、2個の卵から1羽だけ生き残ることが多いようである。各種のディスプレーのなかでは、ダンスと鳴き合いがよく知られていて、とくに春先によくみることができる。
北海道では、1952年(昭和27)の冬、猛吹雪(もうふぶき)のためタンチョウが飢えそうになったのをきっかけに、毎冬トウモロコシの餌(え)まきが行われるようになり、その結果人家近くにもすむようになった。こうしたことから、タンチョウ保護に対する一般の関心も高まり、また1958年には釧路市に丹頂鶴自然公園(たんちょうづるしぜんこうえん)が開園、タンチョウを見にくる観光客も増えた。1952年タンチョウと生息地は特別天然記念物に指定され、1964年に北海道鳥、1967年区域を定めず特別天然記念物となっている。なお、タンチョウヅルともよばれるが、和名はタンチョウというのが正しい。
[森岡弘之]
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タンチョウ
Grus japonensis; red-crowned crane
ツル目ツル科。全長 1.2~1.5m,翼開張 2.4mで,日本産の鳥のなかでは最大の一種である。羽色はほとんど白色だが,眼先から頸,次列風切および三列風切が黒く,頭頂は赤い皮膚が裸出している。尾羽は白いが,翼を広げないと黒い風切羽の先が尾羽のように見える。大陸では中国北東部やウスリー川流域からアムール川中流域,モンゴルで繁殖し,朝鮮半島と中国東部に渡って越冬する。日本では留鳥で,北海道東部に生息し,湿原で繁殖する。繁殖期の初めに雌雄は向かい合って求愛ダンスを見せる(→求愛行動)。巣は地上にアシの枯れ茎を積み上げてつくり,2卵を産む。冬季は人工給餌場などに移動する。明治時代に乱獲と湿原の開拓により激減し,大正時代初期には絶滅したとも考えられた。生息数は 1950年頃には数十羽だったが,1952年に国の特別天然記念物(→天然記念物)に指定され,冬の給餌が開始されたことなどにより,徐々に個体数が増加し,2013年現在 1000羽をこえている。ワシントン条約附属書I適用鳥。
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タンチョウ(丹頂)【タンチョウ】
ツル科の鳥。翼長65cm。日本産鳥類中最大種の一つ。体は白色で,頭頂は赤く,頸(くび)や風切羽の一部は黒色。シベリア南東部,中国東北北部等で繁殖,冬は中国,朝鮮半島等に渡る。日本では北海道釧路(くしろ)湿原を中心に約600羽が留鳥として周年生息する。区域を定めず特別天然記念物。繁殖期初期にははねたり,飛び上がったりして,いわゆるツルの舞を行う。湿原の地上に枯れアシなどを積んで営巣し,1〜2卵を産む。なお,鹿児島県出水(いずみ)市のツル渡来地にも,他のツルにまざって,まれに1〜2羽がくることがある。絶滅危惧II類(環境省第4次レッドリスト)。
→関連項目霧多布湿原|ツル(鶴)|鶴居[村]
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普及版 字通
「タンチョウ」の読み・字形・画数・意味
【丹】たんちよう
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世界大百科事典(旧版)内のタンチョウの言及
【キンギョ(金魚∥錦魚)】より
…ホントウ(紅頭,red cap)は形態はほぼオランダシシガシラに似ているが,色彩は全身が白地で頭頂部に濃赤色のほぼ円形の斑紋がある。日本ではタンチョウ(丹頂)と呼ぶことが多い。なお,これに近縁の品種で背びれを欠くものも輸入されている。…
【ツル(鶴)】より
…熱帯や南半球のものは留鳥だが,北半球の高緯度地方で繁殖する種は,冬季南へ渡って越冬する。日本では,タンチョウ(イラスト)が北海道に留鳥としてすみ,マナヅル(イラスト),ナベヅル(イラスト),クロヅル,カナダヅル(イラスト),アネハヅル,ソデグロヅルの6種が冬鳥または迷鳥として渡来している。 全長70~150cm。…
【鶴居[村]】より
…人口2759(1995)。タンチョウ(特天)の生息する村として有名。阿寒カルデラの南麓にあり,釧路川の支流幌呂(ほろろ)川,雪裡(せつり)川が南流,南の釧路市にかけて広大な泥炭地の釧路湿原が広がる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」