日本大百科全書(ニッポニカ) 「走高跳び」の意味・わかりやすい解説
走高跳び
はしりたかとび
high jump
陸上競技の跳躍種目の一つ。ハイジャンプともいう。2本の支柱の間にかけられたバー(ファイバーグラス製など)を、助走をつけて跳び越えて高さを競い合う競技。「競技者は片足で踏み切らなければならない」という以外、跳び方にはあまり制約がないため、バーを越すフォームは次々とくふうが重ねられ、進化を遂げた。
最初に現れた跳び方は、正面から助走し、バーの上にほぼ直立に体を上げ、両足でバーを挟むようにして跳ぶ正面跳び(はさみ跳び)。これに続いて斜めから助走を開始し、バーの上で体を横に寝かせて回転させながら越えるロールオーバー(ウェスタンロール)や、バーの上を腹ばいになって越えるベリーロールなどが考案された。これは正面跳びのように体の重心をあまり高い位置に上げる必要がないので、非常に効率的なフォームとして多用された。その後、それまで砂場であった着地場にソフトラバーなどが敷かれるようになって危険度も減り、記録はさらに向上した。そして、1960年代に入ると背面跳びというさらに革命的なフォームが案出された。踏み切った後、体をひねって後ろ向きとなり、頭から上昇し背中をそらせてバーを越す跳び方である。このフォームは頭から足までが一本の線となるため、推進力が増すうえに足がバーに触れる危険性が非常に低くなるという画期的な跳び方だった。1968年のメキシコ・オリンピック優勝者ディック・フォスベリーDick Fosbury(本名はリチャード・ダグラス・フォスベリーRichard Douglas Fosbury。アメリカ。1947―2023)が完成したスタイルのため別名「フォスベリー・フロップ」ともいわれている。
競技者はどの高さから跳び始めてもよく、そのあと途中の高さを抜いて(パス)、次の高さに挑むこともできる。ただし3回続けて失敗すれば、次の試技を続けることはできない。たとえば1メートル80センチを1回目、2回目とも失敗したあと、3回目にあたるその高さをパスして1メートル85センチに挑戦できる。しかし、この場合は残る1回(3回目)しかチャンスはなく、失敗すれば次の高さへの挑戦権を失う。また審判の合図があった後、一定時間内に試技を開始しない場合は1回の無効試技となる。
同記録の場合の順位決定は、(1)同記録になった高さで、試技数のもっとも少なかった者を勝ちとする。(2)(1)の方法で決められないときは、同記録を生じた高さまでの全試技数のうち、無効試技数(失敗)がもっとも少なかった者を勝ちとする。(3)それでも決まらない場合は同順位とするが、1位を決定するときに限り、順位決定のための試技(ジャンプオフ)を別に行う。ジャンプオフは、事前に実施しない取決めがあるときや当該選手がこれ以上跳躍しないと決めた場合は実施されない。
オリンピックでは、男子は1896年のアテネ大会から、女子は1928年のアムステルダム大会から正式種目となった。2020年1月時点での世界記録は、男子がハビエル・ソトマヨルJavier Sotomayor(キューバ。1967― )の2メートル45センチ(1993年)、女子がステフカ・コスタディノワStefka Kostadinova(ブルガリア。1965― )の2メートル09センチ(1987年)である。
パラリンピックで走高跳びが実施されたのは、男女とも1976年のトロント大会が最初であった。競技ルールは健常者とほとんど同じで、視覚障害の全盲クラスでは目を不透明なゴーグルなどで覆い、「コーラー」や「エスコート」とよばれる人がスタート位置への誘導を行ったり手をたたいて踏み切り位置を知らせる。切断・機能障害クラスではかならずしも義足を着用しなくてもよく、ホッピング(片足跳び)も認められている。
[加藤博夫・中西利夫 2020年2月17日]