日本大百科全書(ニッポニカ) 「起立性タンパク尿」の意味・わかりやすい解説
起立性タンパク尿
きりつせいたんぱくにょう
腎(じん)炎を患ったことがないのに、やや長時間立ち続けたり運動したりしたのちに検尿すると、尿中にタンパクを認めるものをいい、学童期や思春期に多くみられる。腎炎の場合と異なり、尿沈渣(ちんさ)(新鮮尿を遠心沈殿して上澄みを除いたあとに残ったもの)を調べると、赤血球や円柱状になった有形成分(尿円柱)はほとんど認めず、かつ患者が安静にすれば尿中のタンパクはまったく陰性となる。もちろん、高血圧や浮腫(ふしゅ)(むくみ)、その他腎機能障害も認めない。したがって、1回や2回の検尿では、しばしば他の腎疾患と誤診される場合がある。学童における発生頻度はきわめて高く、約15%という報告もある。頻度数のばらつきは主として検査方法の相違によるものと思われる。検査方法としては、早朝尿と昼間尿とを比較するか、それぞれ10~15分間の直立、あるいはベッドに横たわり、15度強制前彎(ぜんわん)位(腰に枕(まくら)などを当てて前方凸に脊柱(せきちゅう)を彎曲させる)で5分間、または20度強制前彎位で3分間などが行われている。
発生の仕組みについては定説がまだない。いわゆる過敏性体質児、または自律神経不安定性の児童に多いといわれており、腎臓の血管運動神経障害によると考える説、また起立位をとると腎臓が下垂し、腰椎(ようつい)の前彎がおこり、そのため腎動脈を圧迫してうっ血の結果おこるとする説もある。予後は良好であり、20歳前後には自然に消失するので特別の治療は必要なく、むしろ栄養を十分にとり、適当な運動によって筋肉を強くし、虚弱体質の改善に努める。ときには腎組織に実際に病理学的異常があっておこることもあるので、一定期間は経過を追って調べてみることが望まれる。
[加藤暎一]