超強磁場(読み)ちょうきょうじば(英語表記)ultra-high magnetic field

改訂新版 世界大百科事典 「超強磁場」の意味・わかりやすい解説

超強磁場 (ちょうきょうじば)
ultra-high magnetic field

ふつう,70ないし100T以上の磁場を超強磁場という。100TはCGSガウス単位系では1メガガウス(1MG=106G)であるので,超強磁場はしばしばメガガウス磁場とも呼ばれる。

1960年にアメリカのロス・アラモス研究所のC.M.ファウラーらが1000Tをこえる超強磁場の発生を発表して以来,いろいろな方法による超強磁場発生の研究が行われている。超強磁場は,なんらかの方法によって瞬間的に大電流を円形回路(コイル)に流すことによって発生される。この場合,コイルはそこを流れる電流と発生した磁場との間に働く力を受ける。この力はマクスウェル応力と呼ばれ,その大きさは磁場の2乗に比例している。メガガウス領域の超強磁場のもとでは,マクスウェル応力がコイルを作りうるいかなる材料強度をもこえてしまう。したがって通常のコイルによって超強磁場を発生しようとすると,超強磁場が発生される前にコイルが破壊されてしまう。そこで超強磁場を発生するために種々の特別な方法が考案されている。爆薬のもつエネルギーを用いて磁束を濃縮する爆縮法,電磁力を用いて磁束濃縮を行う電磁磁束濃縮法,一巻きコイルに流すパルス電流の時間幅をごく短くすることによって,コイルが破壊される前に超強磁場を発生させる直接放電法,プラズマのピンチ効果を用いたプラズマフォーカス法などがこれまでに開発されている方法である。これらの方法は装置の一部の破壊を伴うが,多層コイルの中の磁場分布をバランスさせることによって非破壊的に超強磁場を発生する多層コイル法も考えられている。一例として電磁磁束濃縮法の原理を図に示す。鉄板に孔をくりぬいた一巻きのコイル(一次コイル)の内側に金属円筒(ライナー)を入れておき,一次コイルにコンデンサーバンクから大電流を流す。ライナーにはそれと大きさがほぼ等しい逆向きの電流が誘導され,これら二つの逆向きの電流の間に働く反発力によってライナーは瞬間的に内側に押しつぶされる。このとき1対の別のコイルによってライナーの内部に初期磁場を注入しておくと,ライナーの内側の磁束は保存されるので,ライナー内側の面積の減少とともに,これにほぼ反比例して磁場が増大し超強磁場が得られる。磁場が最大値に達するまでの時間は数マイクロ秒(10⁻6s)であるが,この間に種々の測定を行うことができる。

超強磁場を物質に加えると,物質のもつ磁気的性質浮彫にすることができるので,超強磁場は物性研究のための有力な研究手段として応用されている。金属や半導体中の伝導電子は,磁場のもとでは円運動(サイクロトロン運動)を行うが,磁場が強くなるとその運動エネルギーは増大し,軌道半径は減少する。また電子のスピンが磁場のもとでもつエネルギー(ゼーマンエネルギー)は磁場に比例する。このように超強磁場下では,物質中の電子の運動やスピン状態が著しく大きい影響を受けるので,種々の相転移非線形現象など,従来理論の枠をこえた新しい現象が見いだされる可能性がある。
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