甲州(武田)流と並ぶ近世兵法学の主要流派。戦国の名将上杉謙信(けんしん)の戦法を祖述した兵法学の汎称(はんしょう)。越後柏崎(かしわざき)琵琶島(びわじま)城主で謙信の軍師であった宇佐美駿河守定行(するがのかみさだゆき)を祖とする宇佐美伝と、蒲原(かんばら)郡加治城主で長尾家の書物預り役を勤めた加治遠江守景英(とおとうみのかみかげひで)を祖とする加治伝などがある。宇佐美伝では三伝の宇佐美造酒介良賢(みきのすけよしかた)(勝興。1590―1647)が江戸へ出て家伝の兵法を教授し、神武思想を指導精神として神徳流(しんとくりゅう)を唱えて名声を高め、晩年紀州の徳川頼宣(よりのぶ)に仕え、子孫代々家業を継いで宇佐美流を称した。同流の主要兵書は『武経要略(ぶきょうようりゃく)』で、良賢の高弟、栗田刑部寛安(くりたぎょうぶひろやす)が水戸藩に、隅田作左衛門是勝が岡山藩に伝流した。
一方、加治伝では、1646年(正保3)三伝加治竜爪斎(りゅうはさい)景明から伝を受けた沢崎主水(もんど)景実(のち朝倉小軒。1625―83)が江戸へ出て、本郷のち芝に塾を開き、同派の根本兵書である『武門要鑑抄(ぶもんようかんしょう)』を大成し、また『要門軍命根(いくさつくね)』など多数の兵書を編述して、要門流(ようもんりゅう)の名を広め、門下に「要門の四家」といわれる高松正春、佐久間景忠、長谷川景重、依田英信をはじめ多くの俊秀を育成し、その門流は広く全国の諸藩に伝播(でんぱ)して幕末に及んだ。
[渡邉一郎]
『佐藤堅司著『日本武学史』(1942・大東書館)』▽『『日本兵法全集第2巻 越後流兵法』(1967・雄山閣出版)』▽『石岡久夫著『日本兵法史 下』(1972・雄山閣出版)』
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