日本大百科全書(ニッポニカ) 「身分から契約へ」の意味・わかりやすい解説
身分から契約へ
みぶんからけいやくへ
from status to contract
イギリスの法制史家メーンのことば。メーンは1861年に名著『古代法』Ancient Lawを著し、その第5章で「……進歩的諸社会の推移は、これまでのところ“身分から契約へ”の推移であったとすることができよう」と書いたことから、広く用いられるようになった。古代、中世の社会関係が、自由人と奴隷、貴族・商人・農奴、家族などの身分によって構成されていたのに対し、近代の資本制的社会関係が、自由平等な各人の自由意思、意思自治による自由なる契約を基礎に構成されていることに着目し、このことばは前近代から近代への社会発展のあり方を表すのに用いられ、進歩的な意味をもっていた。日本でも第二次世界大戦後、民法の身分法の部分が改正されて、新しい男女平等の親族法、相続法が生まれた。しかし今日の発達した資本主義社会では、契約条件を一方的に提示し締結を強制する付合契約が多くみられるようになり、このことばを用いる意義は薄れた。
[佐藤篤士]
『鳩山和夫訳『緬氏古代法』(1885・文部省編輯局)』▽『安西文夫訳『古代法』(1948・史学社)』