農業立地(読み)のうぎょうりっち

改訂新版 世界大百科事典 「農業立地」の意味・わかりやすい解説

農業立地 (のうぎょうりっち)

農業生産は,作物家畜などの栽培・飼養に基づく有機的生産であり,自然的条件(気象土壌地形標高など)に大きく制約されている。また生産物は,野菜,果実牛乳などのような生鮮品をはじめ,輸送性や貯蔵性を欠いている品目が多い。このような出荷流通上の技術的制約とともに,生産物の比価(単位容量当り価格)が一般工業製品に比べて小さいこともあって,運賃負担の関係から遠距離市場への出荷にも困難を伴うことになる。このことが消費地と生産地との位置関係に一定の枠をはめている。このような自然的・社会経済的条件に生産・出荷が規制されている農業で,それぞれの個別作物や家畜がどこで生産されているかを明らかにし,それが自然的要因や都市化,交通輸送機関の発達,その他出荷市場までの距離などの社会経済的要因とどのように関連しているかを究明するのが農業立地理論である。

 農業立地問題に科学的に最初にとり組んだのはドイツ人のJ.H.vonチューネンである。彼はみずからテロー農場を経営し,その経験と実際の記録資料に基づいて立地論の古典《孤立国》(1825)を書いた。その中で彼は,都市からの距離の遠近によって立地する農業経営組織(作目)が異なることを明らかにし,農業立地理論の基礎を築いた。

 チューネンの立地論の理論的要点と特徴は,外界から隔離された自然条件が均質な〈孤立国〉で,ただ一つの消費都市の周りに〈チューネン圏〉と呼ばれる同心円状の経営組織がリング状に,自由式,林業輪栽式穀草式,三圃(さんぽ)式,牧畜という順序で形成されることを示したことである。この理論モデルはワイベルL.Waibelらが農業地理などの基礎理論として応用している。その後,T.ブリンクマン,レッシュA.Lösch,ダンE.S.Dunn,Jr.らがチューネン理論を発展させ,農業立地論は理論的に深められたが,農業立地に関与する立地因子が多く複雑なため,工業立地論に比べて未展開の問題を抱え,残されている課題も多く,今後の理論の深化が期待されている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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