工業生産活動が営まれる場所,またはそのような場所の選択を行うことを工業立地といい,この場所の選択に関する理論を工業立地論という。工業に限らず,農業,商業など産業の立地に関する理論を産業立地論あるいは単に立地論という。
経済活動の立地問題については古くから断片的な分析が行われていたが,本格的に体系化されたものはJ.H.チューネンの農業立地論(《孤立国》1826)に始まる。チューネンは抽象化された孤立国において,都市からの距離に応じて主要生産物を異にするかなり明瞭な同心円構造が存在することを,市場価格を一定とした場合の生産費と都市への運送費との関係から明らかにした。この理論は農業に関するものであるが,その発想は後の工業立地論の展開と経済地域構造解明に大きな影響を与えた。
チューネンの農業立地論に匹敵する工業立地論を体系づけ,立地論研究の基盤を確立したのは《工業立地論》(1909)を著したウェーバーAlfred Weber(1868-1958。マックス・ウェーバーの実弟)であり,彼の理論はその後の立地論の展開に,また現実の工業立地分析に大きな影響を与えている。ウェーバーは,一定の場所での生産活動の単位を立地単位とし,工業の分布を規定する経済的原因を立地因子とよんだ。そして立地因子を全工業について認められる一般因子と,特定の工業にのみ働く特殊因子とに分け,一般因子について検討を行っている。ウェーバーは工業立地を費用節約からとらえ,立地を決定する一般因子として運送費と労働費をおき,この二つの因子が立地決定に及ぼす関係を検討した。さらに,工業が一定地域に集まることによって得られる利益を〈集積の利益〉とよび,分析を行っている。ウェーバーによれば,原料地,消費地,労働力供給地があらかじめ定まっているものとして,工場はまず,原料地から材料を運び,生産された製品を消費地まで運送する費用が最小な地点を指向する。最小運送費地点は原料地か消費地,あるいはその中間点のいずれかに発見される。つぎに,労働因子の作用をみると,良好低廉な労働力供給地が最小運送費用地点と比較され,立地偏向力として働く。すなわち,もし労働費の節約額が運送費の増加額より大きい場合,工場は労働力供給地に吸引される。運送費と労働費の面から一定地区に多数の工場が立地すると,そこには集積因子が作用する。すなわち,分業,協業化による補助産業の容易な利用,原料購入や製品販売における費用の節約,それにガス,水道,道路,港湾施設など一般間接費の節約などである。これら費用節約自体が一つの牽引力となって,より多数の工場を吸引して工業地域を形成し,その規模拡大を促す。しかし,集積が過度に進み,マイナスの利益が生ずるようになると工場の分散が始まるとする。
以上がウェーバーの工業立地論の骨子であるが,現実の工業活動に照らし合わせてつぎのような欠陥をもっている。その第1は原料供給地,労働力供給地それに消費地などを所与のものとして分析している点であり,第2は技術進歩,価格変動,経済変動,立地相互間の関係などの与件を捨象している点である。運送費についてみると,荷役などの終端費用について考慮しておらず,走行費用ではとくにトン・マイル方式による運送費の検討は,遠距離漸減制を柱とする現行の運賃制度となじまない。また,労働費については,その移動性,質,労働運動などの問題を捨象している。さらに,完全競争を前提に消費地を点としてとらえていることも独占下では実態にそぐわない。このような欠点を含んではいるが,ウェーバーの理論は今なお工業立地論の基礎をなしている。
ウェーバー以後は,彼への批判と克服とを含みながらA.レッシュ,E.M.フーバー,M.L.グリーンハット,W.アイザードらによって理論が深められている。
そのうち,レッシュの工業立地論の特色は,ウェーバーなど古典派経済学者の立地論が完全競争下における個々の工場を中心に生産費を最小とする立地を求めたのに対して,独占を仮定し,立地相互の依存関係を抽象的な方程式で示し,部分均衡論に対する一般均衡論の体系を提示し,その体系の中で市場地域,経済地域の構造を動態的に分析したことである。彼の理論はつぎのことを前提として展開される。まず第1にすべての方向に一様な輸送条件をもち,工業生産に必要な原料が均等に分布する均質な平野である。第2に同一の嗜好をもった農業人口が一様に分布する。第3に平野全体に同等な技術知識が普及しており,すべての住民が生産機会を得ることができる。その他の経済的諸力は排除される。レッシュは,運送費が市場地域の境界を規定している点に着目し,市場地域配列の空間構造を分析し,最終的には生産者数の最大化と利潤最大化という二つの基本的原理のもとに,各市場地域が正六角形の境界をなして配列する,蜂の巣状構造(蜂房構造)を明らかにした。各種生産物によって大きさを異にする蜂房状の市場地域は,それぞれ一つの中心都市を取り巻く形で重なり合い,秩序ある空間構造をなしている。すなわち,工場についてみれば,独占によって形成される各市場地域,および各市場地域間の均衡体系の中で立地が決定される。また,完全競争下での点市場は,独占下では面市場,すなわち市場地域を形成し,市場地域の網の目の形成を通じてその中心点に立地するとしている。レッシュの理論はとくに鉄鋼,セメント,ビールなど独占度のきわめて高い工業部門の立地を有効に説明している。
ウェーバー以後,一般均衡論の立場から立地論を再構築しようとする,こうしたレッシュらの流れに対し,巨視的視点から計量経済学の手法を用いて立地論を再構築しようとする潮流もあり,これらは,フーバー,P.フローレンスによる集積現象の計量分析を契機にアイザードにより地域科学へと発展している。
執筆者:竹内 淳彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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