日本大百科全書(ニッポニカ) 「農産物共同販売」の意味・わかりやすい解説
農産物共同販売
のうさんぶつきょうどうはんばい
農家が農業協同組合その他の組織を通じて農産物を共同で販売することをいう。農産物は、どの品目についても、多数の零細な農家によって生産されるという特徴がみられる。そのため、農家は、農産物を単独で販売しようとすると不利な立場にたたされることが多い。農家が農産物を有利に販売するためには、〔1〕買い手の意向をよく把握して、その意向にそって生産を方向づけ、〔2〕収穫された農産物に手をかけるなど、買い手の意向に照らして売り方をくふうし、〔3〕買い手に的確な情報を提供して、農産物を正しく評価するよう仕向けていくことなどが必要である。さらに、〔4〕農産物の直接の買い手である流通業者に対しては、取引力を強化して、農産物の有利な販売に協力するよう仕向けるとともに、目いっぱいの評価を下すように働きかけることもたいせつである。これらの方策を効果的に実行していくには、集荷場、選果場、冷蔵庫といった流通施設の装備が必要であるし、広範囲にわたる情報の収集と伝達が不可欠であり、また、遠隔地の市場にも出荷できる体制を整えなくてはならない。当然、相当な経費が必要であるし、高度の能力も要求される。農家が単独で販売に取り組む場合、十分な効果をあげにくいのはこのためであり、したがって、農家は力をあわせ、共同で販売するという方法を講じようとするのである。現在行われている農産物の共同販売は、農家の共同組織である農業協同組合(農協)に販売を委託するという方法によることが多い。それによって、販売の規模が拡大されると、販売に必要なあらゆる経費が割安になる効果が望めるし、買い手に対する取引力を強化する効果も期待される。また、農協の役職員の専門的な知識や能力に期待をかけることもできる。さらに、農協というのは、農家の農協運営に対する参加と協力によって成り立つものである。このことは、必要な資金や労働を、部分的にせよ農家から調達することを可能にする一方、農家と農協とが一体となって、むだのない効果的な販売活動が行えるという強みの源泉ともなるのである。
[桂 瑛一]