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農薬中毒 のうやくちゅうどくpesticide poisoning

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

農薬中毒
のうやくちゅうどく
pesticide poisoning

農業従事者や農薬工場従業員などのように比較的高濃度の農薬に接触する者に起る急性または亜急性の重症中毒と,農作物に残留する微量の農薬が人畜の体内に蓄積した場合の残留毒性とに大別される。しかし,水銀農薬パラチオンテップ,DDT,BHCなどの毒性の強い農薬は次々に禁止されたので,重症中毒患者の発生は減少した。現在では,接触性皮膚炎,アレルギー性皮膚炎などの皮膚障害のほか,残留毒性の人体への影響が大きな問題とされている。

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世界大百科事典 第2版の解説

のうやくちゅうどく【農薬中毒】

農薬によってひき起こされる中毒をいう。直接農薬を扱う農民に多くみられ,農民の職業性中毒といえる。その発症のしかたで急性中毒慢性中毒に分けられるが,一般に多いのは前者である。急性中毒は当然,農薬散布中に発生することが最も多いが,散布時外に,たとえば散布直後の田畑へ入ったとか,他人の散布したものが降りかかったなどによって発生する例もかなりみられる。また誤飲誤用などの過失によるものや自他殺によるものも多く,後者ではしばしば重症になる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

農薬中毒
のうやくちゅうどく

農薬(殺菌剤、殺虫剤、除草剤、殺鼠(さっそ)剤、土壌消毒剤など)による中毒をいう。農薬中毒の発生状況をみると、散布中の中毒は年々減少の傾向がみられる。これは、強毒性農薬のパラチオンやTEPP(テップ)などから比較的低毒性の農薬に切り換えられてきたこと、農薬中毒の予防運動や農民の農薬の取扱いが慎重になったことなどによる。しかし、農薬による自殺や他殺は依然として減少していないことが注目される。以下、おもな農薬による中毒症状と治療法について述べる。[重田定義]

有機リン剤中毒

代表的なものがパラチオンで、強力な殺虫力をもつが毒性も強く、中毒事故が多発したため、1969年(昭和44)に製造が、1971年に使用が禁止された。パラチオン中毒の本態は、アセチルコリンを分解する酵素コリンエステラーゼの活性をパラチオンが阻害することにより、アセチルコリンが体内に蓄積してコリン作働性神経を過剰刺激することによる。軽症では、全身倦怠(けんたい)、頭痛、めまいに続いて、多量の発汗、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)が加わり、さらに異常な流涎(りゅうぜん)(唾液(だえき)分泌過多)がみられる。中等症になると、軽症の症状に加えて、縮瞳(しゅくどう)が高度になり、歩行不能、筋の線維性れん縮がみられ、言語障害、視力減弱が現れ、ついに意識がもうろうとなる。重症では、意識障害が強く、ついには消失する。気管支の分泌物が増加して口や鼻から泡沫(ほうまつ)を出し、肺水腫(すいしゅ)の症状を呈する。血圧が上昇し、発熱し、瞳孔は極度に縮小して対光反射も消失する。さらに中毒が進むと、全身けいれん、屎尿(しにょう)の失禁をきたし、治療を行わないと呼吸麻痺(まひ)のため死亡する。治療は特効的治療薬として「PAM(パム)注射液」(プラリドキシムヨウ化メチルの商品名)の静脈注射を行うほか、症状に応じて輸液、酸素吸入、鎮静剤や鎮けい剤の投与、強心薬や呼吸興奮剤の投与なども行われる。
 マラソンやスミチオンなど低毒性有機リン剤による中毒の発生機転もパラチオンと同様、コリンエステラーゼ活性の低下による。中毒症状も、いったん発症すればパラチオン中毒と変わらない。治療は前述のPAMとアトロピンの併用が効果的である。[重田定義]

カーバメイト剤中毒

カーバメイトはカルバミン酸塩やエステルを意味し、これにはデナポン、サンサイド、メオバールなどの殺虫剤が含まれる。この中毒も有機リン剤と同じくコリンエステラーゼ活性を阻害することによるが、生体内での代謝が速やかで回復も比較的早い。症状はパラチオン中毒とまったく同じで、治療にはアトロピンの注射が効果がある。[重田定義]

有機塩素剤中毒

有機塩素剤は有機リン剤と並ぶ強力な殺虫力をもち、DDTやBHCをはじめ、アルドリン、クロルデン、エンドリンなどのドリン剤が知られるが、そのほとんどが全面的に使用が禁止され、わずかにPCPのように除草剤として用いられているものがあるにすぎない。しかしそのPCPも魚毒性が強いために1990年(平成2)に農薬登録が失効された。一般に、いずれも毒性は強力である。ドリン剤による中毒の発生機序は明らかでないが、中毒症状は頭痛、めまい、悪心、嘔吐に始まり、重症の場合はてんかん様のけいれんをおこす。長期間の散布作業従事者では、慢性中毒として貧血もみられる。治療には特効薬がなく、鎮けい・鎮静剤を用いる。
 PCP(pentachlorophenolの略称)は除草剤や木材の防腐剤として使われたが、中毒の発生機序は、生体の組織呼吸においてリン酸化を阻害するため、代謝だけが異常に促進されることによる。中毒症状は、初期症状が特異的で、食欲とくに糖分の嗜好(しこう)が亢進(こうしん)するほか、長期にわたる発汗の異常亢進、関節痛などがみられる。また、下腿(かたい)の倦怠感、四肢のしびれ感などもあり、脚気(かっけ)と間違われやすい。重症例では悪心、嘔吐、発熱から虚脱状態に陥り、死亡する。皮膚症状は、にきび様の発疹(ほっしん)が現れ、その頂点が黒色を呈し、ときに化膿(かのう)する。治療はATP製剤を用いる。[重田定義]

有機水銀剤中毒

有機水銀剤は稲作の重要病害であるいもち病に著効を示す有機殺菌剤で、1968年以降は非水銀系の薬剤に切り換えられている。[重田定義]

ブラストサイジン中毒

抗いもち病細菌剤として日本で開発されたブラストサイジンSは農業用抗生物質で、毒性が低いので粉剤をヘリコプターで散布することがある。中毒症状は、粉剤散布後しばらくしてから結膜充血、異物感、流涙、強い眼痛、眼瞼(がんけん)(まぶた)の腫脹(しゅちょう)や発赤などがみられ、角膜の混濁や剥離(はくり)のために視力障害をおこすこともある。治療には、ステロイド剤の点眼が有効だが、角膜損傷がある場合にはステロイド剤の使用を慎重にする必要がある。[重田定義]

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について | 情報 凡例

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