迷・紕(読み)まよう

精選版 日本国語大辞典 「迷・紕」の意味・読み・例文・類語

まよ・う まよふ【迷・紕】

〘自ワ五(ハ四)〙
① 布の織糸が弱って織目が片寄る。布糸がゆるんで、地が薄くなる。すき間ができる。まゆう。
万葉(8C後)一四・三四五三「風の音の遠き我妹が着せし衣手本(たもと)のくだり麻欲比(マヨヒ)来にけり」
② 髪や糸筋などが、もつれ乱れる。きちんとしていたものが乱れる。
源氏(1001‐14頃)若菜下「御髪すまして〈略〉まよふ筋もなくて」
③ 物が複雑に入りまじる。錯雑する。
書紀(720)応神二二年九月(熱田本訓)「峯巖(たけいはほ)(マヨヒ)(まし)りて」
④ 物が入り乱れて、移り動く。さまよう。右往左往する。混雑する。
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「まかで参りする車、多くまよふ」
⑤ まぎれて区別がつかないようになる。まがう。
※今鏡(1170)五「わだの原こぎ出でて見ればひさかたの雲井にまよふ沖つ白浪」
⑥ 目標が不確かなためにまごまごする。さまよう。
※源氏(1001‐14頃)須磨「いづかたの雲路に我もまよひなむ月の見るらむこともはづかし」
⑦ 判断を下しかねる。どうしてよいかと心が乱れる。あれこれと思い悩む。途方(とほう)にくれる。
※源氏(1001‐14頃)東屋「しめゆひし小萩がうへもまよはぬにいかなる露にうつる下葉ぞ」
煩悩や悪い誘惑などに心をまどわす。煩悩に妨げられて悟れない。また、成仏(じょうぶつ)できない。誘惑される。「金にまよう」「女にまよう」
山家集(12C後)中「をかしからぬ身をすてやらでふる程にながきやみにや又まよひなん」
[補注]布の織目がゆるんで糸が片寄るというのが原義で、これから転じて、物事や心の整理がつかなくなる、の意に用いられるようになり、のちに「まどう(惑)」と混同された。
[語誌]→「まどう(惑)」の語誌

まよい まよひ【迷・紕】

〘名〙 (動詞「まよう(迷)」の連用形の名詞化)
① 布が古び、すれて薄くなったため、織糸が片寄ること。
※万葉(8C後)七・一二六五「今年行く新島守が麻衣肩の間乱(まよひ)は誰か取り見む」
② 髪や糸筋などが、もつれ乱れていること。
※源氏(1001‐14頃)椎本「髪、〈略〉塵のまよひなく、つやつやとこちたううつくしげなり」
③ 物がまぎれて、区別がつかぬこと。目標を定めかねるようなさまであること。
※源氏(1001‐14頃)若紫「朝ぼらけ霧り立つ空のまよひにも行過ぎがたきいもが門かな」
④ あちこち入り乱れて移り動くこと。右往左往すること。また、騒ぎ。人の混雑。
※源氏(1001‐14頃)総角「人のまよひ、すこし鎮めて、おはせむと」
⑤ 心が煩悩に乱されて悟りえないこと。
※霊異記(810‐824)中「俗を捨て欲を離れ、法を弘め迷を化(け)す」
⑥ 心が乱れて、正しい判断を下しえないこと。心がまようこと。まどい。
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉八「そりゃア謬想(マヨヒ)だと説破しましたが」
⑦ 人間を迷わせるものに冠する語。
御伽草子酒呑童子(室町末)「荒き風をもいとひしにまよひ変化の業ならば」

まゆ・う まゆふ【迷・紕】

〘自ハ四〙 =まよう(迷)
※万葉(8C後)一一・二六〇九「白栲の袖は間結(まゆひ)吾妹子が家のあたりを止まず振りしに」

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