H.G.ウェルズの作品《透明人間》(1897)によって広まったSFのテーマ。いわゆる〈隠れ蓑(みの)〉の類による肉体の消身伝説や物語は昔から洋の東西に数多いが,そこに体内色素の消去や光の屈折率操作など擬似科学的要素を最初に持ちこんだのがウェルズである。この長編はまた初めて,透明身となることの利得よりその悲劇性を強調した点でも画期的な作品だが,科学性に関しては,色素自体が生命作用を担っていること,目が暗箱とレンズを失う結果透明人間は目が見えないことなど弱点も多く,その後,より優れたSF的消身法が考案されるようになった。背面に当たる光を同じパターンで前面から放射したり,四次元空間に隠れるなどの物理的な空想もある。決定版といえるのは人間の生理機能を逆利用したもので,ニーブンL.Niven《地球からの贈物》(1968)の主人公は,人間の瞳孔が注視のときには開き,そうでないときには閉じるという生理メカニズムを利用し,超能力で瞳孔を強制的に絞らせることによって,相手に対し不可視となる。また推理小説ではチェスタートンが《見えない男》(1911)で,犯人が郵便配達夫だったために目撃者の心理的盲点に入ってしまうという設定を考案している。
執筆者:柴野 拓美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…さまざまな超自然現象を扱った映画の総称。ミシェル・ラクロの分類によれば,幽霊,ゾンビ(歩く死骸),吸血鬼,狼男,シレーヌ(人魚),神と悪魔,天国と地獄,透明人間,霊媒,復活,死後に他の肉体に宿る魂,二重人格,透視力,幻覚,夢遊状態,ゴーレム(生命を吹きこまれた土人形)等々を扱った映画が含まれる。
[怪奇映画の源流]
怪奇映画のもっとも古いテーマは,《フランケンシュタイン》と《ジキル博士とハイド氏》の二つの文芸作品から生まれ,いずれも1908年に映画化されているが,映画史的には,怪奇映画の源流は,第1次世界大戦直後に始まる〈ドイツ表現主義映画〉(表現主義)に発するというのが定説である。…
※「透明人間」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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