獅子文六(読み)シシブンロク

デジタル大辞泉 「獅子文六」の意味・読み・例文・類語

しし‐ぶんろく【獅子文六】

[1893~1969]小説家劇作家演出家神奈川の生まれ。本名、岩田豊雄岸田国士きしだくにおらと劇団文学座を創立。一方で、ユーモア小説で流行作家となった。文化勲章受章。小説「海軍」「自由学校」「娘と私」「大番」など。

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精選版 日本国語大辞典 「獅子文六」の意味・読み・例文・類語

しし‐ぶんろく【獅子文六】

  1. 小説家、劇作家、演出家。神奈川県出身。本名岩田豊雄。岸田国士らと演劇活動に従事し、文学座を組織戦後は軽妙な筆致で時俗をとらえた小説を発表芸術院会員。文化勲章受章。著「てんやわんや」「自由学校」「大番」など。明治二六~昭和四四年(一八九三‐一九六九

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「獅子文六」の意味・わかりやすい解説

獅子文六
ししぶんろく
(1893―1969)

小説家、劇作家。本名岩田豊雄(とよお)。明治26年7月1日横浜に生まれる。慶応義塾普通部を経て文科中退。1922年(大正11)フランスに遊学して演劇を学び、4年後帰国して岸田国士(くにお)らの新劇活動に加わり、近代劇の翻訳や演出を手がけ、『東は東』(1933)などの戯曲を書き演劇論も展開、37年、岸田国士、久保田万太郎らとともに劇団文学座を組織した。しかし、その間に演劇だけでは生計がたたないことを知って、「いわばアルバイトのつもりで、ユーモア小説を書くことを考えついた」(処女作のころ)という。獅子文六の筆名で『新青年』に書き始め、『金色(こんじき)青春譜』(1934)が好評を博し、ついで『悦ちゃん』(1936~37)や『達磨(だるま)町七番地』(1937)などの新聞小説で評判を得、『胡椒(こしょう)息子』(1937~38)や『信子(のぶこ)』(1938~40)を婦人雑誌に発表して成功した。第二次世界大戦中は『海軍』(1942)を『朝日新聞』に本名で連載して反響をよび、戦後は同紙に『自由学校』(1950)を発表し、風刺の効いた戦後風俗批判が話題となった。

 彼は西欧的な知性と洗練されたセンスを身につけ、時代の風俗を的確に描いた家庭小説や風俗小説は、エスプリとユーモアに富んだ文体で独自の境地を確立し、幅広い読者を得てつねにユーモア作家として第一人者の地位を確保した。その後、半自伝小説『娘と私』(1953~56)に作者として新分野を開き、好評を得た。63年(昭和38)芸術院会員。69年文化勲章受章。同年12月13日没。

[都築久義]

『『獅子文六全集』16巻・別巻1(1968~70・朝日新聞社)』

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20世紀日本人名事典 「獅子文六」の解説

獅子 文六
シシ ブンロク

昭和期の小説家,劇作家,演出家



生年
明治26(1893)年7月1日

没年
昭和44(1969)年12月13日

出生地
神奈川県横浜市弁天通

本名
岩田 豊雄(イワタ トヨオ)

学歴〔年〕
慶応義塾大学理財科予科〔大正2年〕中退

主な受賞名〔年〕
朝日文化賞〔昭和18年〕「海軍」,日本芸術院賞(文芸部門 第19回)〔昭和37年〕,文化勲章〔昭和44年〕

経歴
大正11年29歳で渡仏し演劇を学ぶ。14年帰国後は「近代劇全集」などの翻訳を行うかたわら、昭和2年新劇協会に入会、翌年新劇研究所を創設するが1年で解散。12年岸田國士らと文学座を興し、以来同座幹事として発展に尽力した。15年「近代劇以後」を刊行し、劇作家、演出家として岩田豊雄の本名で生涯活躍する。そのかたわら獅子文六名で小説を発表し、「金色青春譜」「悦ちゃん」「南の風」などを発表。17年には唯一の本名で書いた作品「海軍」を発表。戦後も「自由学校」「てんやわんや」「娘と私」「大番」(全3巻)などユーモアあふれる作品を多く執筆した。「岩田豊雄演劇評論集」「岩田豊雄創作翻訳戯曲集」「獅子文六全集」(全16巻・別巻1 朝日新聞社)がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「獅子文六」の意味・わかりやすい解説

獅子文六 (ししぶんろく)
生没年:1893-1969(明治26-昭和44)

作家。横浜生れ。本名岩田豊雄。父は貿易商。1922年に渡仏し,パリ滞在中にJ.コポーらの近代演劇運動に触発されて演劇の道を志した。25年に妻マリーを伴って帰国し,新劇興隆に尽くした。かたわら33年に獅子文六の名で《新青年》に随筆を書き出し,34年に同誌に連載した長編小説《金色青春譜》の成功を契機として小説家となった。世相の観察にもとづく鋭い風刺,変則的家庭環境にある少年少女への同情,良識に裏打ちされた正義感,演劇で鍛えた軽妙な会話,偶然の利用を含めて計算し抜かれた人物の織りなす網目と事件の展開などが,彼のユーモアにみちた家庭小説の特徴をなす。戦前には《悦ちゃん》(1936-37),《胡椒息子》(1937-38),《信子》(1938-40)など,戦中には《おばあさん》(1942-44),本名で発表した《海軍》(1942)など,戦後には《てんやわんや》(1948-49),《自由学校》(1950),《大番》(1956-58)などが新聞・雑誌に連載された。自伝小説《娘と私》(1953-56),《父の乳》(1965-67)も有名である。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「獅子文六」の意味・わかりやすい解説

獅子文六
ししぶんろく

[生]1893.7.1. 横浜
[没]1969.12.13. 東京
小説家,劇作家,演出家。本名,岩田豊雄。 1913年慶應義塾大学予科中退。 22~25年フランスで演劇を学び,27~30年『近代劇全集』に C.ビルドラック,H.バタイユ,L.ピランデッロらの戯曲を翻訳,新劇協会に参加して演出家となった。 33年明治大学講師,同年『東は東』,翌年『朝日屋絹物店』などの戯曲を発表。 37年久保田万太郎,岸田国士とともに劇団「文学座」を創立して顧問となり,フランス近代劇の導入に貢献した。一方獅子文六のペンネームで小説『金色青春譜』 (1934) ,『悦ちゃん』 (36) ,『信子』 (38~40) ,『南の風』 (41) などユーモアと風刺に富む健康な作品を発表して流行作家となった。本名で発表した『海軍』 (42) により第2次世界大戦後追放仮指定を受けたが 48年解除され,以後『てんやわんや』 (48~49) ,『自由学校』 (50) ,『大番』 (56~58) など戦後風俗を軽妙な筆致で描いた小説で人気を得た。 63年日本芸術院賞受賞。 64年芸術院会員。 69年文化勲章受章。

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百科事典マイペディア 「獅子文六」の意味・わかりやすい解説

獅子文六【ししぶんろく】

小説家,劇作家。本名岩田豊雄。横浜生れ。慶大文科中退。1922年フランスに遊学して近代劇を研究し,劇団《文学座》の創立育成に努めた。また1934年の《金色青春譜》を初めとして大衆文学に入り,ユーモアと風刺に富んだ風俗小説を書き,《信子》《海軍》等や,第2次大戦後の代表作として《自由学校》《娘と私》等がある。1969年文化勲章。
→関連項目淡島千景

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「獅子文六」の解説

獅子文六 しし-ぶんろく

1893-1969 昭和時代の小説家,劇作家。
明治26年7月1日生まれ。パリで演劇を研究。大正14年帰国し,近代劇の翻訳や演出を手がける。昭和12年岸田国士(くにお)らと劇団文学座を結成。かたわら「てんやわんや」「自由学校」などのユーモア小説や半自伝小説「娘と私」などを発表した。38年芸術院賞,44年文化勲章。芸術院会員。昭和44年12月13日死去。76歳。神奈川県出身。慶大中退。本名は岩田豊雄。

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367日誕生日大事典 「獅子文六」の解説

獅子 文六 (しし ぶんろく)

生年月日:1893年7月1日
昭和時代の小説家;劇作家
1969年没

出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の獅子文六の言及

【自由学校】より

獅子文六の長編小説。1950年に《朝日新聞》に連載。…

【ペンネーム】より

…日本では,昭和初年に林不忘,牧逸馬,谷譲次の三つのペンネームで時代・現代小説を書き分けた長谷川海太郎が《一人三人全集》をのこした。また劇作家岩田豊雄は獅子文六の筆名で大衆小説を書き,太平洋戦争下に本名で書いた作品の戦争協力姿勢を問われてのちは,獅子の盛名に後半生をゆだねる生き方をした。近年には多様な文芸ジャンルをこなすかたちで1人2氏名の創作家がふえており,栗本薫(SF小説等)=中島梓(評論),中原弓彦(評論)=小林信彦(小説),赤瀬川原平(美術)=尾辻克彦(小説),阿佐田哲也(麻雀小説)=色川武大(他の小説)などが著名である。…

※「獅子文六」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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