変速装置(読み)ヘンソクソウチ(その他表記)speed change gear

デジタル大辞泉 「変速装置」の意味・読み・例文・類語

へんそく‐そうち〔‐サウチ〕【変速装置】

ある回転数の原動軸から従動軸の回転数に変換する装置。歯車式・段車式・電動機式・流体式などがある。変速機

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精選版 日本国語大辞典 「変速装置」の意味・読み・例文・類語

へんそく‐そうち‥サウチ【変速装置】

  1. 〘 名詞 〙 速度をいろいろに変えることができる装置。歯車式・段車式・電動機式などの種類がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「変速装置」の意味・わかりやすい解説

変速装置 (へんそくそうち)
speed change gear

入力軸の回転速度を,必要とする出力軸の回転速度に変換するための装置。変速機ともいう。いま,自動車を例にとると,自動車の駆動車輪の回転速度は,状況に応じていろいろと変化する必要がある。駆動車輪は原動機から動力供給を受けて回転しているが,もし,車輪の軸と原動機の回転軸とが直結されているならば,自動車の走る速さは原動機の回転速度を調節することによって行わなければならない。現在,自動車の原動機の大半を占めている内燃機関の回転速度は,供給する燃料と空気の量を調節することにより変化させることができるが,内燃機関の回転軸と車輪の軸とが直結しているとすると,次のような不都合が起こる。すなわち,(1)自動車は発進時の遅い速度のときに,車輪を回すための大きい回転力(回転トルク)を必要とするが,内燃機関の給気を絞って回転速度を低下させると回転トルクが低下して,自動車の抵抗力(走行抵抗力)に負けて機関の回転が停止してしまう(エンスト),いい換えると,内燃機関はある程度以上の高速回転の領域において,はじめて十分大きい回転トルクを発生する性質をもっている。(2)内燃機関はエネルギー変換の効率,すなわち燃料経済の面からみても,高速回転の領域で回転を続けるのが有利である。したがって,エンストを起こさない程度ではあっても経済回転速度よりも遅い回転速度で運転することは不経済である。

 以上のような理由により,自動車を内燃機関で駆動するには原動機である内燃機関と車輪との間に変速装置を入れて,原動機の回転速度は内燃機関に有利な一定の範囲の値に保ったままでも車輪の回転速度を変化させることができるようなくふうをすることが必要となる。このような事情は電動機についても当てはまる。電動機の中には,それ自身が変速可能のものもあるが,もっとも耐久性があり保守が容易な誘導電動機は,一定回転速度の性質をもっているので,工作機械などの作業機械を駆動する場合には,変速装置を誘導電動機の回転軸と作業機械の回転軸との間に入れて,作業機械の回転軸の回転速度を作業条件に応じて変化させる必要がある。

 入力軸の回転速度をNi,出力軸の回転速度をNoとしたとき,両回転速度の比iNo/Ni速度比と呼び,変速装置の性能を表す重要な数値である。この速度比を階段的にしか変化させることができないものと,ある一定の速度比の範囲内の任意の値に連続的に変化させることができるものとがあり,後者は無段変速装置と呼ばれる。動力伝達系統からみると一般に変速装置は伝動装置の一部を,場合によっては全部を形成するとみることができる。動力伝達においては回転速度の制御だけでなく,回転力すなわち回転トルクの伝達の制御も重要な役目であるので,変速装置の特性を評価するにあたっては,変速の性能とともに伝達トルクが速度比とどのような関係にあるかを示すトルク特性にも注目しなければならない。例えば,速度比がいろいろ変化してもトルクは一定であるような定トルク特性,回転速度とトルクとの相乗積が一定であるような定出力の特性などがある。

 変速装置の変速原理からみた分類は伝動装置の分類と同じ体系になるが,大別すると機械式変速装置,流体変速装置,電気式変速装置の三つとなる。機械式変速装置には歯車を用いるもの,ベルト伝動によるもの,摩擦車を利用した摩擦伝動によるものがある。歯車式は有段の変速装置としてもっともすぐれており,広い用途をもっている。ベルト式は有段および無段変速装置として用途があり,摩擦車式は有段の変速装置としての利用もあるが,無段変速装置として使用することが多い。流体変速装置としてはトルクコンバーター歯車変速装置を組み合わせたものが自動車の自動変速装置として用いられており,このほか,油圧ポンプ油圧モーターによる方式がある。後者の油圧ポンプと油圧モーターによる方法は,原動機によって油圧ポンプを回転して高圧の油を発生させ,この油を油圧モーターに送って油圧モーターを回転させるもので,原動機の回転は一定に保持しても,油圧ポンプおよび油圧モーターの調節により出力軸(油圧モーター)の回転速度を変化させることができる。流体変速装置は無段変速が可能で高性能であるが,複雑で高価となる。電気式変速装置は発電機と可変速電動機を用い,原動機により発電機を回転し,発生した電流を可変速電動機に送って電動機を回転させる方式で,原動機の回転速度を一定に保持しても電動機の回転速度を変化させることができる。なお,電動機そのものの回転速度を制御する方法については〈電動機〉の項目を参照されたい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「変速装置」の意味・わかりやすい解説

変速装置
へんそくそうち
speed change device

原動軸と従動軸の回転速度比をある範囲内で段階的あるいは連続的に変換する装置。機械的なもの、流体的なもの、電気的なものなどがある。角速度の変化を段階的に行うものを段階変速装置、連続的に行うものを無段階変速装置という。原動機の回転速度が一定であるとき、この速度を種々に変えて他の機械に伝えたいとき、または原動機の回転速度が変化しても機械の速度を一定にしたいときに使用する。後者の場合には自動制御をするのが普通である。

 機械的な段階変速装置としては段車を用いたベルト伝動、すべり歯車、クラッチ、滑りキーなどがあり、摩擦伝動装置、巻掛け伝動装置などは機械的無段階変速装置である。ベルト伝動は直径の異なる数個のベルト車を並べ、ベルトを掛け換えることにより速度を変える。一つの軸にベルト車を多数付けた段車では1本のベルトを次々に掛け換えればよいが、ベルトがたるむので張り車を必要とする。二つの軸をそれぞれ段車とすると、1本のベルトを掛け換えるだけで二軸間の速度を変えることができる。段車の数を無限にしたのが円錐(えんすい)ベルト車で、この場合は無段階変速装置となる。摩擦伝動を用いた無段階変速装置にバイエル変速機がある。スプライン軸上に数枚の薄い円錐形摩擦板を並べ、この摩擦板の間に他方のスプライン軸につけた摩擦板(周縁に円錐形のリムがついている)を交互に挟み、一方の軸上の摩擦板をばねで軸方向に押し付けておき、二軸間の距離を変化させると、円錐摩擦板の接触部の半径が変化し、二軸間の速度は連続的に変化する。楔(くさび)形の接触面が多数あるので、比較的小型で大きなトルクを伝えることができる。巻掛け伝動装置の例としてはPIV(positive infinitely variable driveの略)変速機というのがある。これは原動軸と従動軸にそれぞれ一対の対向円錐調車を取り付け、原動軸の円錐調車の間隔が大きくなると、同時に従動軸の円錐調車の間隔が狭くなるようになっている。原動軸と従動軸の円錐調車間に輪形調帯を掛けると、調帯の必要な長さはつねに一定に保たれ、調帯の掛かっている部分の半径の比を変化させることにより二軸間の角速度比を無段階に変えることができる。調車の円錐面には傘歯車状に溝がつけられ、ベルトのかわりにスラッチという薄板の特殊な鎖が溝にひっかかるようになっていて滑りをおこさない。工作機械その他の作業機械に広く使用されている。

 流体変速装置はポンプと流体原動機とを組み合わせた構造で、ターボ式、アクシャルピストン式、ラジアルピストン式、羽根式などの各種がある。また回転速度比の広い範囲にわたって効率をよくしたボイス式流体変速装置もある。いずれも無段階変速装置である。

 電気的変速装置としては極数変換電動機、ワード・レオナード方式、整流子電動機などがある。

[中山秀太郎]


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百科事典マイペディア 「変速装置」の意味・わかりやすい解説

変速装置【へんそくそうち】

回転軸の速度を段階的または連続的に変化させる装置の総称。連続的な変速を行うものは無段変速装置と呼ぶ。変速の原理から機械式,流体式,電気式に分けられる。機械式変速装置にはベルト式,摩擦車式,歯車式などがあり,流体式変速装置の代表的なものはトルクコンバーターである。また電気式変速装置としては直流電動機の界磁調節,整流子形の交流電動機,ワード・レオナード方式など諸種のものがある。これらの装置は,工作機械,自動機械,車両などに広く利用されている。
→関連項目減速装置自動変速装置伝動装置

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「変速装置」の意味・わかりやすい解説

変速装置
へんそくそうち
speed changing device

回転軸の速度を連続的に,あるいは段階的に変化させるための装置。機械式,流体式,電気式がある。機械式変速装置には歯車式やチェーン式の段階的のものと,円錐ベルト車式や摩擦車式 (定半径板を回転円板上で滑らせる) など各種の連続的変速用 (無段変速装置) がある。流体式の変速装置ではトルクコンバータ方式,油圧ポンプ・モータ方式など種類が多い。また電気式変速装置は電動機を原動力とするため,これを電気的に制御する場合 (電車,エレベータ,工作機械) と,他の原動機の変速装置として利用する場合 (ディーゼル電気機関車) とがある。

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世界大百科事典(旧版)内の変速装置の言及

【自転車】より

…1900年ころからは国産自転車の本格的な生産が開始され,国内の自転車保有台数は明治末の約40万台から,大正末には470万台に達しており,通勤や会社,商店の業務用としてしだいに国民生活になくてはならない交通機関として定着していった。 第2次世界大戦後は,自転車に対する考え方も,重くて黒塗りの荷物運搬のためのあくまで実用的な乗物から,人だけが乗る自由で快適な乗物へと変化していき,60年代に入ると乗りごこちがよく変速装置のついた軽快車が主流になってきた。そして60年代後半にはミニサイクルが出回るようになり,家庭婦人の買物や通勤,通学に普及していった。…

※「変速装置」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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