村外から村内に通ずる道を,その村境(村の出入口)において象徴的に切る,すなわち遮断する習俗。その目的は不浄悪穢を村内に入れないためであり,その根底には村の内・外を区別して村内を浄域とし,村外を不浄域とする考えがある。道切りの対象となる不浄悪穢には疫病をはじめとする災厄すべてが含まれる。農作物の病害虫については,別に〈虫送り〉の行事がある。穢はつねに村外から侵入するものと考えられており,その侵入を防ぐことが道切りという呪術的行為の主目的であったが,いったん侵入を許した場合には,疫病送りや虫送りなどのように速やかにこれを村外にはらう必要が生まれる。そして稲虫送りの行事である虫送りにも,かならず稲虫の再侵入防止のために道切りの行事が伴っている。道切りには定期的な共同祈願として行われるものと,災害発生時の共同祈願としてなされるものとの2種がある。道切りにおける呪術的行為の種類は地域によって異なるが,その代表例としては,しめ縄,勧請縄などを村の入口に張り渡すもの,村祈禱のさいの祈禱札を村境の札場に立てるものなどがある。またしめ縄には片草鞋や性のシンボルなどの呪物をつるす例がある。東南アジアにも共通する習俗がみられる。
執筆者:垂水 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…しかし宿はしばしば河原や,遊女・傀儡などの根拠地に成立し,寺院が宿の機能を持つ場合もあったのである。他方,漂泊民,遍歴民は,その本拠とする津,泊(とまり),渡し(わたし)や境,坂などをはじめ,山野河海,道などの場で〈道切り〉を行い,通行する人々から〈手向け〉初穂を要求することがあった。この行為が公認された場合,そこは関となったのであり,中世の関で関料を徴収しえたのは,勧進上人をはじめとするこうした遍歴民自身だったのである。…
…この範域は原則的に地租改正に引き継がれ,現在の大字(おおあざ)の範囲となっている。範域としての境界においても道祖神(どうそじん)がまつられたり,道切りが行われることもあるが,事例的には少なく,一般的には村境として強く意識されていない。ムラの人々が村境として意識し,さまざまな呪術的行事を行う社会的境界は集落と耕地の境である。…
※「道切り」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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