虫送り(読み)ムシオクリ

デジタル大辞泉 「虫送り」の意味・読み・例文・類語

むし‐おくり【虫送り】

農作物、特に稲の害虫を追い払う呪術じゅじゅつ行事。たいまつをともしたり、実盛さねもりとよぶわら人形を担いだりして、かね太鼓をたたいてはやし村境まで送って行く。稲虫送り実盛送り 夏》狩野川に沿うてのぼるや―/虚子」→実盛送り

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改訂新版 世界大百科事典 「虫送り」の意味・わかりやすい解説

虫送り (むしおくり)

稲などにつく病害虫を追い払うための儀礼。村単位で行われる重要な共同祈願の一つである。農薬などの有効な防除法をもたない時代には,各地の農村で盛んに行われた。虫害古く悪霊のしわざと考えられ,全国的にほぼ共通した形式の呪法が伝えられている。虫の霊をわら人形などの形代(かたしろ)に移し,これを中心にたいまつをともし,鉦(かね)や太鼓ではやしながら耕地をめぐって村境まで送り,まつりすてる。人形には苞(つと)に入れた食物を持たせたり,害虫を葉に包んで付けるのが一般的である。村境は川や海の場合もあり,わら人形はここで焼いたり流したりする。6,7月の夜に行われることが多いが,土用三郎といい土用は3日目と決まっている村もある。わら人形はサネモリ実盛)と呼ばれ,害虫は斎藤別当実盛(斎藤実盛)の御霊(ごりよう)が化したものという伝承が西日本に広く分布する。〈実盛〉は田の虫を意味するサノムシが転訛したものとも考えられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「虫送り」の意味・わかりやすい解説

虫送り
むしおくり

ウンカニカメイチュウなど、主として稲の害虫を村外に追放する呪術(じゅじゅつ)的な行事。毎年初夏のころ定期的に行う例と、害虫が大発生したとき臨時に行うものとがある。一例を示すと、稲虫を数匹とって藁苞(わらづと)に入れ、松明(たいまつ)を先頭にして行列を組み、鉦(かね)や太鼓をたたきながら、田の畦道(あぜみち)を回って村(集落の意)境まで送って行く。そこで藁苞を投げ捨てたり、焼き捨てたり、川に流したりする。理屈からいえば、村外に追放しても隣村に押し付けることになるが、村の小宇宙の外は他界(たかい)であり、見えなくなったものは消滅したと考えたのである。風邪(かぜ)の神送り、厄病送りなどと一連の行事で、呪術のなかでは鎮送(ちんそう)呪術に含まれる。害虫は実在のものであるが、非業(ひごう)の死を遂げた人の霊が浮遊霊となり、それが害虫と化したという考えがあって、非業の死を遂げたと伝えられる平安末期の武将斎藤別当実盛(さねもり)の霊が祟(たた)って虫害をもたらすという故事に付会して、帯刀の侍姿の藁人形(実盛人形)を担ぎ歩く所もある。虫送りを「さねもり祭り」などとよぶのはそのためである。初夏の風物の一つとして、子供の行事にしていた所も多い。近年は農薬の普及に伴って虫害も少なくなり、この行事も急速に消滅した。

[井之口章次]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「虫送り」の解説

虫送り
むしおくり

おもに稲に虫害をおよぼす悪霊を地区から追い払うための共同の呪術的な儀礼。稲がかなり生育した夏の害虫発生時に臨時的に行われることが多い。数匹の稲虫を藁苞(わらづと)にいれたり桟俵(さんだわら)にのせ,御幣をたて,松明(たいまつ)を先頭に鉦(かね)・太鼓を打ちながら地区内の田を回り,地区境でこれを焼くか川・海に流す。斎藤実盛の御霊(ごりょう)がイナゴと化して害をもたらすといって実盛人形を作り,これを担いで地区内をはやしつつ練り,地区外に送るところでは「実盛さん」という風流(ふりゅう)となっている例もある。

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百科事典マイペディア 「虫送り」の意味・わかりやすい解説

虫送り【むしおくり】

イネの虫害を防ぐための民間行事。多くは5〜8月ごろ行われ,わら人形を中心に松明(たいまつ)を連ね,鉦(かね),太鼓ではやしながら田畑の中の道をねり歩く。人形は最後に海や村境の川に流すか焼き捨てる。虫の霊を人形に移し,その退散を祈る呪(じゆ)法である。中部以西でこれを〈さねもり送り〉という(斎藤実盛)。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「虫送り」の意味・わかりやすい解説

虫送り
むしおくり

農作物の発育に害をなす虫を駆逐する呪術的儀礼。虫害は農作物のために不幸な死を迎えた人間の怨霊の仕業と考え,その人間をかたどった人形をつくり,高く掲げて田畑を回り,村境や川,海,山などにまで送り出す。期日は一定しないが,春から夏にかけて多い。虫送りは中世の御霊信仰 (ごりょうしんこう) と深い関係にあると考えられている。

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世界大百科事典(旧版)内の虫送りの言及

【イナゴ(稲子)】より

… イネを食害するので,ウンカやニカメイチュウとともにイネの大害虫として知られ,第2次世界大戦前の日本での被害は莫大なものであった。各地の農村に伝わる虫送りの行事は,これらイネの害虫を退治したいという農民のせつなる願望を示すものであった。実際の対策としては,全国的規模で田のあぜなどに産み込まれた卵塊を掘りあげたり,成虫を捕獲して駆除するなどを行った。…

【ウンカ】より

…この人形を非業の死を遂げた人の姿として説明することもある。中国地方の村境の小字に雲鉦(うんかね),雲霞森などの地名が見られるのはこの虫送りの痕跡である。【千葉 徳爾】。…

【御霊信仰】より

… 御霊信仰の広まりと定着は,神事祭儀の場としての御霊社を中心としつつ各種の夏季の民俗行事や民俗芸能を生み,現代に伝えている。害虫駆除を祈念して,藁人形を仕立て,鉦(かね)・太鼓を打ち鳴らしながら畦(あぜ)を行列し,村境まで〈虫〉を送り出しに行く虫送り(虫追い)や雨乞いなどの呪術的行事とか,芸能性の濃い念仏踊や盆踊などとかは,その代表的なものといえる。生祠(せいし)流行神(はやりがみ)人神(ひとがみ)【横井 清】。…

【斎藤実盛】より

…謡曲《実盛》は遊行上人が篠原で実盛の霊をとむらうという内容で,世間に流布していた伝説類にもとづいて脚色されている。また農村では実盛は稲の株につまずいて倒れたのが原因で敵に討たれたため,その恨みによりイナゴなどの害虫となって稲を食い荒らすと信じられ,実盛の霊を供養して害虫を退散させる虫送りの行事が長らく行われてきた。そのほか実盛に関する伝説や説話は,江戸時代の浄瑠璃《源平布引滝》や歌舞伎《源家八代恵剛者(げんけはちだいめぐみのつわもの)》などに多くの素材を与えている。…

【厄病神】より

… 厄病神に侵入された家では家人が疫病にかかると信じられていたため,家の戸口に護符をはったり,鍾馗(しようき)のような人形をおいてこれを防いだ。また民間には,厄病神送りといって,災厄をもたらす悪霊を人形にとりこめて村境や川に流す風習があり,鹿島流し,疱瘡流しや虫送りはその代表的なものである。茨城県では12月8日に一つ目の厄神が来るので,目の多い目籠を竿につるして軒先に立ててこれを追い払う風習もある。…

※「虫送り」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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