日本大百科全書(ニッポニカ) 「遺伝子組換え規制法」の意味・わかりやすい解説
遺伝子組換え規制法
いでんしくみかえきせいほう
正式名称は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律97号)であるが、通称として「遺伝子組換え規制法」「遺伝子組換え生物等規制法」や「カルタヘナ法」ともよばれる。2004年(平成16)2月に施行。従来施行されていた「組換えDNA実験指針」等の指針にかわり、遺伝子組換え生物等の使用について規制する法律である。
遺伝子組換えなどにより改変された生物等(LMO:Living Modified Organism)の研究開発や実用化が進展する一方で、もともとに自然界に存在する生物の多様性の保全と持続可能な利用という観点からこうしたLMOの取扱いや保管等を適切に制限することの重要性が、国際的に認識された。そこで、生物の多様性の保全と確保を目的としたカルタヘナ議定書(生物多様性条約の生物安全性=バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書)が2000年1月に採択され、2003年9月に発効した(日本は2003年11月に締結、2004年2月に発効)。それに対応して遺伝子組換え生物等の規制についても、議定書の趣旨に沿った的確な実施を確保するために、新たに「遺伝子組換え規制法」が制定された。
[飯野和美]
概要
この法律では、遺伝子組換え生物などの使用を、第一種使用等と第二種使用等に分けている。
第一種使用等は、拡散防止しないで行う使用等であり、屋外利用が該当する。遺伝子組換え生物などの作成者や輸入者は、その生物を初めて使用等をする前に所轄の大臣に使用規定の承認を申請する必要がある。たとえば、遺伝子組換え農作物についても、「生物多様性影響が生ずるおそれがないものとして環境大臣及び農林水産大臣が第一種使用規程を承認した遺伝子組換え農作物」というように承認された農作物一覧が表で示されており、隔離圃場(ほじょう)試験等や栽培・食用における使用規定の承認が行われる。第一種使用等においては、ヒトへの健康へのリスクへの配慮と国境を越える移動における安全の確保に配慮されていることが、特徴である。
一方、第二種使用等は、拡散防止措置をしつつ行う使用等であり、施設内利用が該当する。大学等の実験施設における封じ込め組換えDNA実験等がこれに該当するが、物理的封じ込めを含めた拡散防止措置が必要である。物理的封じ込めについては従来の指針よりも基本的に緩和され、P1~P3の3段階に分類されるが、さらに動物の生物的特性(A)と植物の生物的特性(P)をそれぞれ組み合わせた措置が求められる(動物使用実験ではP1A/P2A/P3Aと組換えのブタ、ヤギ、ウシ等を想定した特定飼育区画、植物等使用実験ではP1P/P2P/P3Pの各レベルが設定されている)。
さらに、この法律では、罰則規定があり、また未承認の遺伝子組換え生物等の水際での検査を目的とした生物検査、情報の提供、輸出に関する手続についても規定している。
[飯野和美]
『吉倉廣監修、遺伝子組換え実験安全対策研究会編著『よくわかる!研究者のためのカルタヘナ法解説――遺伝子組換え実験の前に知るべき基本ルール』(2006・ぎょうせい)』